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沖縄「復帰50年」の現状

「理事長のページ」 研究所ニュース No.78掲載分

中川雄一郎

発行日2021年08月31日


2022年5月14日付朝日新聞(朝刊)は、その第1面に「沖縄 基地なお集中 あす日本復帰50年」と題する「現代沖縄歴史資料的な記事」を載せた。そこで私は、その記事の一部と雑誌『AERA』('22.5.16 No.22)の「沖縄『復帰50年』」の一部を引用しつつ、「沖縄の社会-経済的な現状」をより正確に理解するための視点を捉(とら)えておくために、「復帰50年」の一部を簡潔に記しておこうと考えた。そして先ずは朝日新聞の記事を「私なりに簡潔に取りまとめた」記事から始めることにした;

(1)沖縄が日本に復帰して本年5月15日で50年になる。太平洋戦争後の米軍統治下を経て「基地のない平和な島」を訴えた半世紀。この間に沖縄以外の米軍基地(専用施設)面積は約6割減となったが、沖縄では約3割減にとどまり、基地全体の約7割が沖縄に集中し続けている。県議会は13日、基地の大幅な整理縮小と日米地位協定の抜本的な改定を政府に求める決議・意見と、昨秋に起きた米兵の性犯罪に抗議する決議・意見書を全会一致で可決した。(中略)

(2)50年前と比較すると、基地の面積は本土が1万9699ヘクタールから7808ヘクタールに、沖縄は2万7892ヘクタールから1万8483ヘクタールとなっている。国土面積0.6%の沖縄に過密に存在する基地からは、騒音や環境汚染、米軍関係者の事件が続いている。県によると、復帰後に発生した墜落や部品落下など航空機関連事故は826件(2020年12月時点)、米軍関係者の刑法犯検挙数は6068件(同)に上る。

(3)経済は大きく発展した。2018年度の県内総生産(名目値)は4兆5056億円と復帰時の9.8倍。県民総生産に占める基地関連収入の割合は、1972年度の15.5%から77年度以降は1桁で推移し、18年度は5.1%となった。ただ、復帰前に極端な輸入依存型の経済ができ、雇用の安定に欠かせない製造業は育っていない。第3次産業の割合は全国でも突出している。県民所得は全国最下位レベルで、子どもの貧困率は16年公表の県調査で全国平均の2倍の29.9%と深刻だ。(後略)

そこで次に私は、これら3つの記事と関連した沖縄の実態について知るために、2022年2月3日付朝日新聞の「沖縄季評」で山本章子氏(琉球大学准教授)が「『安全保障』下の日常:空も水もほど遠い平穏」と題して述べているうちの3点について紹介しよう;

① 2021年に日米地位協定の運用に関わる日米合同委員会において普天間飛行場を出入りする米軍機は病院や大学の上を避(さ)けることが合意されたにもかかわらず、それが努力義務の故にまったく守られていない。琉球大学の上も毎日米軍機が飛び、講義の声がかき消される。コロナ感染対策で教室の窓を開けるので防ぎようがない。岩国飛行場所属のF35Bステルス戦闘機が訓練で普天間飛行場に飛来し、100デシベル超の騒音に宜野(ぎの)湾(わん)市役所には市民から苦情の電話が寄せられた。その騒音は、電車が通るときのガード下にいる程の「きわめてうるさい」レベルである。そんな環境が子どもの成長に良いわけがない。米軍基地の面積は沖縄本島の15%を占めており、米軍機は日々の訓練で島の上を縦横無尽に飛び回っている。島のどこにいても米軍機の音を聞かない日はないのだ。

② 昨年8月に米軍が普天間飛行場の地下水槽にたまった有機フッ素化合物(PFAS)を含む汚染水を薄めて処理し、公共下水道に放出すると日本政府に通告してきた。PFASは消火剤の泡立ちをよくするために使われるが、自然環境の下では極めて分解されにくい。人間の体内に入ると、健康に深刻な影響を及ぼす可能性がある。国内の調査では、妊婦の血液中のPFAS濃度が高いと、子どもが低体重で生まれる傾向があることが分かっている。米国での調査でも胎児への影響の他に精巣癌や腎細胞癌、甲状腺疾患などとの関連性が確認されている。実は、那覇市に供給される北谷浄水場の水道からも嘉手納基地から流出したと見られるPFASが検出されており、金武町の水道水・地下水からもキャンプ・ハンセンから流出したPFASが検出。沖縄の空も水も平穏な場所はないようだ。県と宜野湾市が反対し、政府も汚染水の放出中止を求めたが、米軍は日本側と協議中の8月26日に一部放出を強行したのである。

③ 日米地位協定第4条では、米軍には返還した基地の現状回復義務がないために、環境汚染を防ぐインセンティブがはたらかない。汚染水を放出した理由は、安全性の高い焼却処分にすると費用がかさむからであった。結局、ドラム缶1800本分に相当する残りの未放出の汚染36万リットルは、すべて防衛省が引き取り、約9200万円もの費用をかけて焼却処分することになったのである。(中略)宜野湾市で生まれ育った私と同世代の知人は、幼少から水道水を飲んではいけないと言われ、自身も子どもにそう教えている。私の子もそうなるのだろうか。子どもを守るのではなく、静かで安全な生活を知らないまま、危険な日常になれさせるのがこの国の「安全保障」なのか。

そして最後に、作家であり詩人である池澤夏樹氏が、沖縄にやって来て感じた「憂鬱」と「復帰/返還五十年 減らない基地と沖縄の憂鬱」と題して『AERA』に寄稿された巻頭言とを携えて、「沖縄の50年」を「声」として伝えてくれています。なお、その「声」の後半部のみをここに書き添えることを許していただきたい。それでも、私たちはこの文章から「沖縄の復帰/返還の憂鬱」を確かに感じ取ることができるのです;

カフェで昼食を摂(と)っていると戦闘機が飛来した。一機また一機と計四機。この間、二分ほど、爆音でまったく会話ができない。学校ならば授業ができない。
目を転じれば遠くをオスプレイが二機飛んでいる。部品、落とすなよ!
復帰五十年、本土から言えば沖縄返還五十年。
沖縄は豊かになったけれど相対的には本土より貧しい。米軍統治は製造業を育てなかった。基地依存は減ったが今も観光業などが主軸なのはそのためだ。
基地は減らない。復帰の時に言われたことは嘘ばかりだった。それは今も続いていて中央政府は欺瞞と強権に終始し、高裁以上の裁判所は沖縄の言い分をまったく聞かない。日本国憲法の上位に日米安保条約があるのだからそうせざるを得ないのだろう。
本土の世論はよくて無関心。時には「土人」という言葉も出る。かつては沖縄事情を理解する政治家が中央にもいたが今は皆無。知事と首相の会見さえむずかしい。
どう見ても無理筋の辺野古埋め立ては強引に進める。コップ一杯のマヨネーズに箸が経つか否かやってみればいい。官僚の誰にも「止めよう」という勇気がない。次に申し送って逃げる。
だから、沖縄は憂鬱なのだ。

私は、池澤氏の「だから、沖縄は憂鬱なのだ」との締め括りの言葉は、とりわけ2002年の「政府・県・名護市による普天間代替施設の埋め立て合意」以後から現在までの凡(およ)そ20年に及ぶ沖縄の経済と社会、したがってまた政治の在り様を表現している、と観ている。その視点からすると、私は、アエラの辺野古新基地をはじめ矛盾する「沖縄の現況」を「『アメとムチ』の手法」と提示した編集部の渡辺 豪氏の結語の一部をお借りして締め括ります。

日本をめぐる安全保障環境が厳しくなる中、本土では基地に反対すること自体、ネガティヴに捉える空気が広がり、これが「沖縄は振興策で特別扱いされている」との見方と相まって、差別やヘイトにつながる傾向も浮かぶ。だが沖縄には、全国の7割超の米軍専用施設が集中し、さらに自衛隊の「南西シフト」も進む。有事に戦争に巻き込まれるリスクや、「加重な基地負担」の解消を求める沖縄の人たちの声を切り捨てていいはずがない。

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