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中西五洲『理想社会への道』

「理事長のページ」 研究所ニュース No.10 掲載分

 角瀬保雄

発行日2005年05月16日


3 月28日、総評会館で中西五洲さんの新著『理想社会への道』(同時代社)の出版記念のつどいが開かれました。中西さんは有名な中西4 兄弟の末弟で、法政大学在学中の1943 年、治安維持法で逮捕され、戦後マッカーサー指令で釈放された人で、全日自労の創立にかかわり、初代委員長になり、民革路線の提唱で知られています。同時に三重県民生協の創立、中高年雇用福祉事業団の創立、高齢者生協の創立と、今日の労働者協同組合運動の生みの親といえる人です。労働組合運動と協同組合運動の双方にかかわりをもつ数少ない社会運動の指導者といえます。

その中西さんが80 歳でパソコンを習い、3 年間かけて完成させたのが『理想社会への道』です。私は10 数年前、黒川俊雄先生や中西さんと一緒に協同総研の創立に関わったことがありますが、以来日本の改革のためには労働組合運動と協同組合運動が手を携えていくことが必要と考えてきました。しかし、労働組合運動は協同組合運動に十分な理解をもたず、協同組合運動も労働組合運動に理解をもちえないでいるというのが現実といえます。労働者協同組合運動はここ数年間、法制化運動に取り組んできましたが、大衆的な市民運動から遊離して、ロビー活動に傾斜し、ワーカーズ・コレクティブ運動とも手を携えることが出来ないでいます。しかし、私は将来に対して必ずしも悲観的ではありません。労働組合運動のなかから、中西さんの民革路線の発展ともいえる新しい胎動が生まれてきているように思われるからです。こうしたなか当研究所の機関誌『いのちとくらし』(no.10)では「非営利・協同における労働問題」という座談会がもたれました。読者の皆さんの感想をお聞きしたいところです。私は民医連関係の各地の学習会に呼ばれることがありますが、その際、労働問題についてもふれることがあります。一般の非営利・協同組織では、労働問題が聖域になっているようですが、私はかねがね非営利・協同組織の労使関係は「合意協力型」であるべきと主張してきており、共感をえてきています。そうしたなかで民医連院所が所属している法人では「全職員参加経営」が目指されるとともに、労働組合が活発に活動していることで知られています。非営利・協同組織における労使関係の一つのモデルになっているともいえるでしょう。時に労使関係が激化したり、時に協力関係が強まったりしているのを見聞しています。

ところで最近、これは一般の産業にも当てはまる普遍的な、21 世紀型の労使関係のあり方ではないかと思うようになっています。それは近年、全労連民間の組合運動路線として強調されるようになってきている事実を知ったからです。かつては労働組合の運動路線は労使の「単純対決型」と「協調型」とにきれいに分かれていたと思いますが、いまやそれを乗り越える新しい胎動が高まってきているように思われます。「組合は要求するだけ、経営は経営者の責任」という労働組合運動の限界がはっきりしてきたのだと思います。

私が注目する単産としては、全労連全国一般の「たたかう提案型」の運動路線があります。これは「労働者を守り、要求を実現するためには社長ダメ論、経営オマカセ論を克服し、多数の世論と力で経営者に経営改善と改革を迫り、労働者犠牲ではなく、まともな経営に変えていくこと」といわれるものです。2005 年の「運動方針(案)」では「経理公開をさせ、決算資料の分析、取引先・銀行・業界の動向をしらべます。経営の問題点は、暴露的な批判ではなく、みんなが『そのとおり』と共感する的確な批判をし、『こうすれば要求が実現できる』『こうすればまともな経営になる』という提案をつくります」ということが強調されています。

そのほかの単産でこうした路線を追求しているものに全印総連、自交総連、建交労、JMIU(全日本金属情報機器労働組合)などがあります。民医連関係の労組でも、こうした経営改善提案づくりの取組みの事例はいろいろあると思うのですが、どうでしょうか。全労連は官公労が中心になっていますが、そこでも新しい胎動が生まれてきているように思われます。小泉「構造改革」は「小さい政府」、「官から民へ」ということで、社会保険庁などの官公庁や公的機関の不祥事をとりあげ、公務公共労働に攻撃を集中してきています。確かに公的セクターのところには、国民から支持をえられない問題があり、労働組合の対応が注目されるところです。国公労連は組合員のいるところで、問題が発生していることを反省し、民主的公務労働の確立を提起しています。

また地方自治体のところでは、NPM(ニュー・パブリック・マネージメント)ということがいわれ、公共業務の「自治体アウトソーシング」が進められています。こうしたなか各地の自治体の「職員厚遇」が問題となっています。これに対して大阪市労組は市当局と連合系労組との癒着のなかで生まれてきたもので、自らには直接かかわりのない問題であっても、これまで解決できず、放置してきたことに対しては責任がある、という態度をとっています。

こうした労働組合運動の最近の動向をみると、民間部門ばかりでなく、公的部門、非営利・協同部門のすべてにおいて、働く労働者が自らの社会的責任の問題に自覚的に取り組みだしたといえそうです。いま労働組合の危機ということが問題になっていますが、危機の時代はそれを跳ね返すチャンスの時代にもなりうるのだと思います。機関誌『いのちとくらし』では、ひき続き非営利・協同組織の労働問題を取り上げることを予定しています。

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