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『二木立の医療経済・政策学関連ニューズレター(通巻199号)』(転載)

二木立

発行日2021年02月01日

出所を明示していただければ、御自由に引用・転送していただいて結構ですが、他の雑誌に発表済みの拙論全文を別の雑誌・新聞に転載することを希望される方は、事前に初出誌の編集部と私の許可を求めて下さい。無断引用・転載は固くお断りします。御笑読の上、率直な御感想・御質問・御意見、あるいは皆様がご存知の関連情報をお送りいただければ幸いです。


目次


お知らせ

1.論文「『自助・共助・公助』と『自助・互助・共助・公助』は法令・行政でどう使われているか?」を『日本医事新報』2021年2月6日号に掲載します。本「ニューズレター」200号に転載する予定ですが、早く読みたい方は掲載誌をお読みください
2.オンライン講演「コロナ危機が日本社会と医療・社会保障に与える影響と選択」
2月19日(金)午後7時半~9時に行います。神奈川県保険医協会・政策部主催、定員1000人で、申し込み締め切りは2月17日です。もちろん無料です。

参加希望の方は下記URLにアクセスし、登録手続きを行ってください。
https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_nBJGIhoQTJ2FCqqRINuQJA
登録完了後、当日視聴に必要な情報が記載された自動返信メールが届きますので必ずご確認下さい。自動返信メールが届かない場合は、メールアドレスの登録間違い等が考えられます。お手数ですが再度、ご登録ください。
登録するメールアドレスは、当日視聴されるデバイスのものをご登録ください。携帯電話(特にdocomo・au・softbank)のアドレスを登録すると、登録確認メールが 受信できない事例が報告されています。できれば、PCのメールアドレスやgmailなどのアドレスの登録をおすすめします。(神奈川県保険医協会・政策部)


1. 論文:全世代型社会保障検討会議「最終報告」と財政審「建議」を複眼的に読む

(『文化連情報』2021年2月号(515号):8-15頁)

はじめに

全世代型社会保障検討会議(議長:菅義偉首相。以下、検討会議)は昨年12月14日「全世代型社会保障改革の方針」(以下、「最終報告」)を取りまとめ、翌日閣議決定されました。本稿では「最終報告」の特徴を、「中間報告」(2019年12月)と「第2次中間報告」(昨年6月)、及び「社会保障制度改革国民会議報告書」(2013年8月)との記述の異同に注目しながら、検討します。

併せて、財務省の財政制度等審議会が昨年11月25日に取りまとめた「令和3年度予算の編成等に関する建議」(以下、「建議」)の「社会保障」の「医療」部分の検討も行います。その内容は「最終報告」よりはるかに広くしかも深まっており、今後の医療改革を考える上での重要な問題提起も含んでいるからです。

1 「最終報告」の検討-分量・内容とも史上「最薄」

「最終報告」の形式面の最大の特徴は、本文がわずか5頁に過ぎないことです。これは「中間報告」(13頁)のわずか4割です。私は1980年代から40年近く、政府・厚生(労働)省の社会保障や医療制度改革の公式文書を検討してきましたが、これほど薄い報告は初めてです。後述するように、内容面でも「薄い」と言わざるを得ません。検討会議が2019年9月の設置以来1年3か月間も議論してきたにもかかわらず、この程度の報告しかまとめられなかったことは、政治と政府検討組織の劣化の現れと言えます。

閣議決定時に重要な訂正

さらに驚いたことに、閣議決定された「最終報告」には、前日の検討会議で取りまとめられ、検討会議のホームページにもアップされている「最終報告(案)」に随所で訂正が加えられました。例えば、児童手当の特例給付の対象外とする「生計維持者(年収1200万円以上の者」の注での例が「子供2人の専業主婦世帯の場合」から、「子供2人と年収103万円以下の配偶者の場合」に訂正されました(4頁)。これは明らかな凡ミスです。

私が問題だと思うのは、後期高齢者のうち2割負担となる対象が「課税所得が28万円以上及び年収200万円以上の方」から「課税所得が28万円以上かつ年収200万円以上の方」に訂正されたことです(単身者の場合。5頁)。これは、14日の検討会議後、「最終報告(案)」の説明を聞いた公明党側から「『及び』よりも『かつ』とした方が分かりやすい」との意見が出され、閣議決定直前に訂正されたようです(MEDIFAXweb12月14日21:56)。「及び」と「かつ」では対象の範囲は変わるはずですが、訂正前後で後期高齢者の給付費削減額は変更されておらず、元文書の記載ミスと思います。なお、このような訂正は公式には示されておらず、新聞でも報道されていません。

上記の凡ミスや「最終報告」の肝ともいえる部分での記載ミスは、政治と政府検討組織だけでなく、政府を支える官僚の文書作成能力の劣化も進んでいることを示しています。私はその背景には、長年、霞が関官僚の定員削減が続けられてきた一方、厚生労働省等一部の官庁で業務量が激増し続け、コロナ危機への対応でそれが加速し、彼らの疲弊が頂点に達していることがあると思います。その凄惨な実態は千正康裕氏(元厚生労働省キャリア官僚)が赤裸々に描いており、氏が主張する「霞が関全体の人員配置の適正化と柔軟化」、および国際的に見ても非常に少ない公務員の定員増が急務と思います(1)

各論は少子化対策と医療のみ

「最終報告」の柱立てをみても、各論は少子化対策(新規)と医療の2つだけで、「中間報告」にあった年金と労働と予防・介護が消えており、とても「全世代型社会保障」改革とは言えません。労働や年金分野については、所要の改革が第201回国会で実現したためとされていますが(2頁)、「予防・介護」が消えたことの説明はありません。

私は、菅内閣になって官邸での経済産業省の影響力が失墜し、予防・健康づくりにより医療・介護費用の抑制とヘルスケア産業の育成の両方が実現できるとの同省の「根拠に基づく」ことのない主張が、政権内で否定されたことの現れと推察します。

共助・公助の説明が変化

順序が逆になりましたが、「最終報告」の総論である「全世代型社会保障改革の基本的考え方」の冒頭には、菅首相の十八番である「『自助・共助・公助』そして『絆』」、及び「まずは自分でやってみる」自助が掲げられています。

「中間報告」でも、「自助・共助・公助の適切な役割分担」の見直しが書かれていましたが、自助のみが強調されてはおらず(3頁)、これは菅首相の愛用表現への「忖度」と言えます。国民がコロナ禍で経済的・心理的に大きな困難に直面している時に、自助を前面に出す菅首相の「持論」を検討会議が追認したことには疑問を感じます。

私自身は、「目指す社会像」として「絆」(のプラス面のみ)を強調し、それを国民に押しつけるスタンスには強い疑問があります。最近、社会科学領域では、「絆」とほぼ同じ意味の「ソーシャル・キャピタル」(人間関係の豊かさ、社会の結束力・ネットワーク等)が注目されていますが、それにはプラス面だけではなく、「負の側面」(外部者の排除や個人の自由の制限・拘束等)もあることが強調されています(2)

もう一つ気づいたのは、共助と公助の説明が、従来の政府の公式見解から変わったことです。「最終報告」は、「自助・共助・公助」について、「まずは自分でやってみる。そうした国民の創意工夫を大事にしながら、家族や地域で互いに支え合う。そして、最後は国が守ってくれる」と、菅首相の主張を踏襲して説明しています。この説明からは、自助=自分、共助=家族や地域、公助=社会保障制度(社会保険制度と公的扶助や社会福祉)と理解できます。

しかし、これは、共助=社会保険制度、公助=公的扶助や社会福祉という近年(正確に言えば2006年以降)の政府の公式説明や、安倍晋三前内閣時に取りまとめられた「社会保障制度改革国民会議報告書」(2013年)の説明(2頁)と異なります【注】。検討会議構成員には、国民会議委員だった研究者が3人いるのに、この不整合・解釈変更は理解に苦しみます。

必要な財源確保に触れず

私は「最終報告」の総論の最大の問題点は、今後の人口高齢化に伴って増加する社会保障費を賄うための財源確保にまったく触れていないことだと思います。この点は、「社会保障制度改革国民会議最終報告書」が「全世代型の社会保障への転換は、世代間の財源の取り合いをするのではなく、それぞれに必要な財源を確保することによって達成を図っていく必要がある」(9頁)と注意を喚起していたのと真逆です。言うまでもありませんが、これは、菅首相が、安倍前首相の「今後10年程度は消費税率を引き上げる必要はない」との方針(国会答弁)を踏襲しており、検討会議で「必要な財源を確保する」議論が封殺されたためです(3)

実は、「中間報告」では曲がりなりにも、改革の5つの視点の4番目である「全ての世代が公平に支える社会保障」の項で、「必要な財源確保を図ることを通じて、中長期的に受益と負担のバランスを確保する努力を継続していく必要がある」と書かれていました(4頁)。

しかし、「最終報告」では「中長期的視点」という表現自体が消えました。逆に、「現役世代の負担上昇を抑えることは待ったなしの課題」(2頁)、「後期高齢者支援金の負担を軽減し、若い世代の保険料負担の上昇を少しでも減らしていくことが、今、最も重要な課題」(5頁)と、現役世代・「若い世代」と高齢世代との世代間対立をあおる主張を繰り返しているのは見識に欠けます。これは世代間のコスト・シフティングに過ぎず、しかも後述するように、後期高齢者の負担増による給付費減のうち、現役世代の負担減に回るのはわずか2割です。

なお、小規模な財源確保について、私は各論の「少子化対策」で、「待機児童の解消」のために年末までに「新子育て安心プラン」を取りまとめ、その財源として「公費に加えて、経済界に協力を求めることにより安定的な財源を確保する」と書かれていることに、注目しました(4頁)。これは、「最終報告」の隠れた目玉とも言えますが、経済界が本当に協力するのか、今後、監視が必要と思います。

新味のない「医療提供体制の改革」

もう一つの各論である「医療」は3本柱で、最初の「医療提供体制の改革」は、「菅案件」である「オンライン診療の推進」が加えられた以外、新味はありません。「第2次中間報告」では、医療については「昨年[2019年]12月の中間報告で示された方向性や進め方に沿って、更に検討を進め、本年末の最終報告において取りまとめる」(6頁)と予告されていましたが、さらなる検討はされておらず、看板に偽りありです。

ただし、オンライン診療の推進について、菅首相が当初指示していた全面的な「恒久化」ではなく、「安全性・信頼性の担保を前提とした」という留保条件が付けられたことは評価できます。

後期高齢者への2割負担導入

医療の2番目の柱「後期高齢者の自己負担割合の在り方」は、「課税所得が28万円以上かつ年収200万円以上の高齢者」(現役並み所得者を除くと23%)の医療費の窓口負担を2割とすることです。しかし、これは検討会議に先立ってなされた12月9日の菅首相と山口公明党代表との合意・妥協を追認したに過ぎず、検討会議、特に研究者構成員の存在意義が問われます。ちなみに、英語ではこのような組織をrubber-stamp committee(ゴム印組織)と言います。

この2割負担導入については、医師会・医療団体や自民党の強い反対を受けて、①実施時期は、「中間報告」で示された「2022年度初」から2022年度「後半」へと最大限半年延期され、②「影響が大きい外来患者について、施行後3年間、1月分の負担増を、最大限でも3,000円に収まるような措置を導入する」とされました。

しかし、国民、特に高齢者がコロナ危機で心理的・経済的に疲弊している時に、高齢者を狙い撃ちにした負担増方針を打ち出せば、コロナ危機ですでに生じている高齢者の医療機関の受診控えを加速し、医療機関の経営困難をさらに悪化させる危険があります。

この点に関し私は、日本医師会が昨年10月28日に発表した「後期高齢者の患者負担割合のあり方について」(ウェブ上に公開)で、2割負担導入に反対する理由の2番目に「応能負担(収入や所得に応じた負担)は、本来は保険料(共助)および税(公助)で求めるべきである。財務省が言うように『可能な限り広範囲』ではなく、『限定的』にしか認められない」と、社会保険の原則に基づく主張をしたことに注目しています。

なお、日本医師会の医療政策会議は昨年4月に公表された『平成30・令和元年度医療政策会議報告書』の序章の「財源」で、以下のように述べていました。「社会保障における能力に応じた負担という考えは、財源調達面に限るのであり、生活リスクに直面してニーズが顕在化し給付を受ける段階で、自己負担率に差を設けることは、社会保障の理念にそぐわない」(5頁。全文ウェブ上に公開)。日本医師会の上記見解は、これを踏まえたものかもしれません。

後期高齢者の負担増のうち現役世代の負担減に回るのは2割弱

「最終報告」は本文だけで資料が付けられていなかったため、後期高齢者の負担増による医療給付費減のうち、どれくらいが現役世代・「若い世代」の負担減になるか不明でした。しかし、12月23日に開かれた社会保障審議会医療保険部会に提出された参考資料1「議論の整理(案)に関する参考資料(「医療保険制度改⾰に向けて」)」の1「全ての世代の安⼼の構築のための給付と負担の見直し」(以下、「参考資料」)から計算したところ、それが2割にも満たないことが分かりました。

この点を含め、「最終報告」と「参考資料」には、以下のように何重ものトリック・すり替えがあります。

まず、「最終報告」は「後期高齢者支援金の負担を軽減し、若い世代の保険料負担の上昇を少しでも減らしていく」(5頁)と強調しています。菅首相も、12月14日の全世代型社会保障検討会議の冒頭発言で、「若い世代の負担上昇を抑えることは、待ったなし」と発言しました。しかし、「参考資料」の1-①のタイトルは「現役世代の負担上昇を抑えるための…」で、「若い世代」から「現役世代」にすり替えられています。厚生労働省用語では「若人」は非高齢者という意味ですが、私の知る限り、「若い世代」を同じ意味で用いたことはありません。そのため、「最終報告」を読んだ多くの人は「若い世代」で20代または20~30代をイメージすると思います。

次に、「参考資料」5頁の数値を見ると、給付費減少(=後期高齢者の負担増)1930億円の中心は「公費」1010億円で、「後期高齢者支援金(現役世代の負担軽減)」740億円より多くなっています。その上、「参考資料」19頁によると、「現役世代の負担軽減」には「本人負担」だけでなく「事業主[企業-二木]負担」減も含まれ、「本人[現役労働者]負担」減は350億円に止まっています。これは給付費減少全体の18.1%に過ぎません。私の知る限り、「現役世代の負担」に「事業主負担」を含んだ政府の公式文書はこれが初めてです。

言うまでもなく、「本人」のうち「若い世代」はごく一部です。2019年の20~64歳の「生産年齢人口」のうち、20~29歳は18.2%に過ぎず、「若い世代」を20~39歳に広げても38.9%にとどまります(『国民衛生の動向2020/2021』387頁から計算)。

しかも、「参考資料」7頁によると、今回の改革案による「1人当たり支援金に対する抑制効果」は1年700円(2022年度)です。この約半分は事業主負担なので、「本人」負担減は約350円=1月当たり30円弱に過ぎません。「若い世代」は給与水準が低いので、保険料も少なく、「支援金に対する抑制効果」はさらに小さくなります。これではとても、「若い世代の保険料」を減らすとは言えません。

私も「最終報告」が書いている、「若い世代は貯蓄も少なく住居費・教育費等の支出の負担も大きいという事情」は深刻だと思います。しかし、これを若い世代の「保険料負担の上昇を少しでも減らしていく」ことにより是正することは不可能で、若い世代の給与引き上げと正規雇用化の促進、及び住居費・教育費への公的補助・支出が不可欠と思います。

今回の後期高齢者の負担増提案は、この課題から目を逸らす「レッドヘリング」(本題から目をそらさせるための偽情報、本題からかけ離れた紛らわしい情報)であり、経済学的には公費・企業負担から高齢者負担への「コスト・シフティング」と言えます。厳しい言い方をすれば、「若い世代」はもちろん「現役世代」の負担増抑制は、そのためのダシに使われたと言えます。

なお、後期高齢者医療制度の患者負担分を除いた給付費の費用負担構造(公費約5割、高齢者約1割、後期高齢者支援金約4割)を前提にする限り、仮に2割負担の範囲を今回の提案より増やしても、上記結果の大枠は変わりません。

大病院の定額負担拡大は少し狭められた

医療の3番目の柱である「大病院への患者集中を防ぎかかりつけ医機能の強化を図るための定額負担の拡大」では、「中間報告」で示されていた定額負担拡大の「対象病院を200床以上の一般病院に拡大する」方針[一般病床が200床未満のケースミックス病院も含む-二木]が、日本医師会や病院団体の強い反対を受けて修正され、「『紹介患者への外来を基本とする医療機関』のうち一般病床200床以上の病院」に狭められました。今後、「紹介患者への外来を基本とする医療機関」がどのように規定されるかで、その影響は変わってくると思います。

2 財政制度等審議会「建議」の「医療」部分の評価

次に、財政制度等審議会「建議」の「社会保障」の(1)医療(17-36頁+対応する図)の検討を行います。私は新著『コロナ危機後の医療・社会保障改革』で財務省について、「財政制度等審議会『建議』をはじめ、同省関連の文書は極めて緻密であり、『突っ込みどころ満載』の経産省文書とは大違いです」と書きました(4)。今年度の「建議」を読んで、「最終報告」と比べても、同じことが言えると感じました。

「建議」は「医療」について、次の5つの柱立てで、改革の検討を提案しています。①患者に係る保険給付範囲(患者負担)の在り方、②薬剤費の適正化、③医療費を巡るガバナンスの強化、④医療扶助、⑤新型コロナへの対応。私は「社会保障の機能強化」を支持しているので、①に書かれている、「最終報告」と同じ論調の保険給付範囲の縮小・患者負担増には賛成できません。しかし、菅内閣により国民負担増が封印され、「給付面からの取組みが中心となる」前提・制約の下では、提案への賛否は別にして、極めて整合的かつ緻密に書かれていると感じました。

また、⑤「新型コロナへの対応」の冒頭で、「新型コロナの脅威が続いている中、闘いの最前線に立ち続け、献身的な努力を重ねていただいている医療従事者の方々には深い敬意とともに心からの感謝の意を表したい」と、今までの「建議」にはなかった、医療従事者に対する心のこもった記述があることに注目しました(34頁)。

私が注目・共感する6つの提案

以下、私が注目するか共感した6つの提案・指摘について、提案順に述べます。これらは「最終報告」にはまったく書かれていませんが、今後の医療改革を考える上できわめて重要であり、厚生労働省や日本医師会等の医療団体は正面から議論すべきと思います。

第1に私が注目したのは、①の中で、「医療保険・介護保険における負担の在り方全般について、所得のみならず、金融資産の保有状況も勘案して負担能力を判定する体系を構築すべく、具体的な制度設計について検討を進めていく」と提起していることです(20頁)。私は上述した日本医師会の見解と同じく、「応能負担(収入や所得に応じた負担)は、本来は保険料(共助)および税(公助)で求めるべき」と考えているので、患者の窓口負担割合に、金融資産の保有状況により差を付けることには反対です。しかし、金融資産の保有状況を勘案して租税負担を課すことには大賛成です。社会保険料についてもそれは十分検討に値すると思います。

第2に、②「薬剤費の適正化」として、「新規医薬品の薬価算定方式の妥当性・透明性の徹底」、及び高額医薬品について「形式的な乖離率や品目数のみではなく、乖離額に注目すべき」との提案には大賛成です(22-23頁)。

第3に、③「医療費を巡るガバナンスの強化」の「予防・健康づくりと医療費適正化の関係」の項で、現行の施策の問題点を指摘した上で、予防・健康づくりは「医療費適正化を可能とするための施策として考えるにはエビデンスが乏しく、まして、予防・健康づくりの推進を理由に他の医療費適正化策の手を緩めることがあってはならない」と断じていることに、多いに共感しました(27-28頁+図Ⅱ-1-25,26)。ただし、最後の「他の医療費適正化策の手を緩めることがあってはならない」について、それが医療費抑制策という意味であるなら賛成できません。実は、「平成31年度予算の編成等に関する建議」も予防・健康づくりと医療費適正化の関係にやんわりと疑問を呈していたのですが、今年度はそれがストレートな指摘・批判にパワーアップしました。

第4に、④「医療扶助」改革の一環として提起されている「生活保護受給者の国保等加入」(33頁)も正論と思います。「建議」が指摘しているように、これは「国民皆保険の考え方とも整合的」であり、すでに介護保険で制度化されています。具体的には、65歳以上の生活保護受給者は、介護保険に加入したまま、保険料は「生活扶助」の上乗せ分で、利用者負担分は「介護扶助」で支払います。

第5の、私がもっとも注目・共感した提案は、⑤「新型コロナへの対応」で、「仮に措置が必要とすれば」という条件付きですが、「緊急包括交付金のような交付金措置よりも診療報酬による対応の方が優れており、新型コロナの流行の収束までの臨時の時限措置としての診療報酬による対応に軸足を移すべき」との提案です(35頁)。昨年12月18日の中医協総会では、2021年度前半の「特例的措置」として、外来1回5点、入院1日10点等の加算が認められましたが、これは「建議」の提案に沿った対応と言えます。

これと関連して、第6に「医療機関への支援を検討するうえでは、医療機関の経営状況等を把握することが欠かせないが、その『見える化』は不十分」との指摘も重要と思います(35頁)。私は2007年の医療法改正で医療法人の「事業報告書等を誰でも閲覧できることが可能となった」ことを高く評価していましたが、恥ずかしながら社会福祉法人に比べて公開が不徹底であることは知りませんでした。

おわりに

以上、全世代型社会保障検討会議「最終報告」を批判的に検討すると共に、財政制度等審議会「建議」の「医療」部分の注目すべき提案を指摘してきました。

本年の通常国会には、「最終報告」に基づく法改正が、おそらく「一括法」として、上程されると思います。しかし、長引くコロナ危機で国民が経済的・心理的な困難を抱えており、しかも菅内閣の支持率が昨年末から急激に低下したことを考えると、今後の医療団体・関係者の運動や国民・ジャーナリズムの反応によっては、「最終報告」に盛り込まれた後期高齢者負担増の一部の見直し(激変緩和措置の拡大や実施時期の延期等)がなされる可能性もないとは言えない、と私は判断しています。この意味で、「未来はまだ決まっていない」と言えます。

【注】政府文書は2006年から共助=社会保険と説明

実は、菅首相の自助・共助・公助の使い方は、政府の伝統的な用法です。例えば、『厚生白書』でこの表現を最初に用いた『平成12年版厚生白書』は、「これからの社会保障のあり方」として、「個人の自立を基礎とする社会にあって、自助、共助、公助という言葉に表される個人、家庭、地域社会、公的部門など社会を構成するものの機能と適切な役割分担、その中での社会保障の位置づけと範囲をどのように考えていくか」と述べました。この場合の「公助」=「公的部門」であり、それには当然社会保険も含むと読めます。

それに対して、小泉政権末期の2006年5月にまとめられた官邸の社会保障の在り方に関する懇談会報告書「今後の社会保障の在り方について」は、「我が国の福祉社会は、自助、共助、公助の適切な組み合わせによって形づくられるべき」と、「21世紀福祉ビジョン」の表現を踏襲しつつ、従来の解釈を大きく変えて、「共助」を社会保険とし、「公助」は「公的扶助や社会福祉」に限定しました。この解釈変更は同年の『平成18年版厚生労働白書』でさっそく採用されました:「社会保険制度など生活のリスクを相互に分散する共助」。その後、「共助」を「社会保険」とする解釈は、政府・厚生労働省の統一見解となり、福田・麻生内閣の「社会保障国民会議報告」(2008年)でも、民主党政権の「社会保障・税一体改革成案」(2012年)でも踏襲されました(5)。「社会保障制度改革国民会議報告書」(2013年)でも同じです。

このような政府による自助・共助・公助の用法の変化を踏まえると、菅首相の社会保障の理解は2005年以前の古い政府見解のまま止まっていると言えます。このことは、私が本連載(185)で指摘した、菅首相の「社会保障・医療改革への関心は極めて低い」ことの証左にもなっています(6)。なお、私自身は、公的扶助(生活保護)や社会福祉が「国民の権利」として認められていること-安倍首相も国会答弁で公式に認めたこと(3)-を考えると、それらを社会保険と切り離す最近の「共助・公助」論には強い異論があり、全体を「社会保障」と一括して扱うべきと考えています。

文献

[本稿の1は『日本医事新報』2020年12月26日号に掲載した「全世代型社会保障検討会議『最終報告』をどう読むか?」に加筆したものです。2は書き下ろしです。]

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2.インタビュー:複眼的視点で考える医療・社会保障改革

(『JAHMC』(公益財団法人日本医業経営コンサルタント協会機関誌)2021年1月号:7-10頁。www.jahmc.or.jp)

越年しても、いまだ収束の兆しが見えないコロナ危機だが、諸外国では緊急開発されたワクチンの接種も始まり、早晩終息すると信じたいところである。ただ、いずれにせよコロナ危機後に待ち受けているのは、かつてとは異なる日常だ。医療・介護をめぐる情勢もかつてと同じというわけにはいかない。どのような変化が待ち受けているのか。" 複眼的視点" で鋭い提言を続ける二木立氏に展望していただいた。

日本はなぜ感染者数を抑えられているのか

―― 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が拡大する中、日本は欧米諸国に比べ、感染者数、死亡者数とも比較的低い水準で推移しています。その要因をどのようにお考えでしょうか。

二木 日本の人口当たりの感染者数・死亡者数は、複眼的に評価すべきだと思います。2020 年11 月26 日時点の人口100 万人当たり感染者数は、ベルギーが1,000 人強、イギリス、アメリカが800 人強であるのに対し、日本は15.8 人と2 桁ほど少なくなっています。しかし、アジア諸国(14カ国)と比べると、日本の死亡者数はフィリピン、インドネシア、ミャンマーに次いで4 番目に多いのです。「日本モデルは素晴らしい」と言うのは早計でしょう。

 欧米諸国と日本・アジア諸国の感染者数の桁が違う要因について、当初は肥満率やBCG の免疫効果などが指摘され、最近では遺伝子的な要因も指摘されていますが、今の段階ではわかっていません。ただ、日本が欧米諸国に比べて患者数が少ない理由の一つに、日本人の清潔志向や同調性の強さが挙げられると思います。 加えて、日本の国民皆保険制度とフリーアクセス、つまり軽い病気でもすぐに医療機関を受診できるということも見逃せないでしょう。元厚生労働省医政局長の武田俊彦氏も、国民皆保険による医療へのアクセスの良さが大きかったと述べており、私も同意見です。

コロナ危機は「中期的」で「弱い」追い風に

―― 二木先生は2020 年9 月に出された著書『コロナ危機後の医療・社会保障改革』の中で、COVID-19 拡大は「今後の医療分野への『弱い』追い風になる」と書かれています。その意味するところをお話しいただけますか。

二木 私の主張のポイントは、おおむね5 年くらいの「中期的」で、「弱い」追い風というように二重の限定をしている点です。私は物事を分析したり客観的将来予測を行ったりするときには、プラス面とマイナス面を複眼的に指摘するようにしていますが、今回はあえてプラス面に力点を置きました。その理由は、この本の第1節を執筆したのはまだ全国に緊急事態宣言が出されていた5 月上旬のことで、医療機関は大変な困難を抱え、ほとんどの医療関係者が今後の医療について悲観的な見方をしていたからです。

 短期的には、コロナ禍が医療機関にとって大変な逆風であることはいうまでもありませんが、私が「追い風」と認識する出発点は、今回のコロナ危機で国民・ジャーナリズム・政府の、医療に対する意識・認識がガラリと変わったことにあります。非常時でも必要な医療を誰でも受けられることがいかに大切かということに気づき、COVID-19 と闘う医療機関・医療従事者に対する強い感謝の気持ちを持ったことが決定的に重要です。

地域医療構想は3 つの見直し 7 割稼働で成り立つ診療報酬に

二木 このような国民意識の変化を追い風にして、中期的には3 つのことが生じると期待しています。1 つ目に、厳しい医療費抑制政策にある程度の歯止めがかかることです。平等な医療を受けることが大事だとわかったので、市場原理導入を主張できなくなっています。そして2 つ目に保健所の機能強化、3 つ目に地域医療構想の見直しが挙げられます。

 中でも地域医療構想に関しては、①医療機能別必要病床数に感染症病床が含まれていないこと、②高度急性期・急性期病床の大幅削減方針、③効率一辺倒で余裕のないスタンスになっていること、の3 つが今後見直されると思います。

 そして長期的には、病院経営に余裕を持たせるための診療報酬制度の改革が不可欠と考えています。なぜなら地域医療構想が2025 年の必要病床数に基づき想定している病床利用率は、高度急性期が75%、一般急性期が78%です。現実的には90 ~ 95%ないとやっていけないのに、ずいぶん緩いと2015 年当時は思ったのですが、今回のコロナ危機でこの数値は意味があったことがわかりました。コロナ危機収束後も患者の入院・外来受診は、コロナ危機前の水準まで戻らない可能性が十分にあります。その場合、病床利用率7割が常態化する可能性もあるので、それでも成り立つ診療報酬にしないといけないのです。

未来は決まっていない

―― 一方で、医療分野に継続的に大幅な税財源が投入される可能性は、大きくないというやや悲観的な見解も述べられています。「弱い」追い風との関係について教えてください。

二木 国民は医療、国民皆保険制度の大切さを肌感覚で認識しましたが、現在の「中福祉・低負担」の社会保障制度を「高福祉・高負担」に転換するための大幅な国民負担増に賛成する人は、ごくわずかだと思います。菅義偉首相は安倍晋三前首相の「消費増税は今後10 年不要」という方針を踏襲しています。これは消費税だけでなく、他の国民負担も上げないことを意味すると思うので、現在の政策の延長では、医療には中期的にも「強い」追い風は吹かないと判断しました。ただし、未来は決まっていないということも強調すべきだと思っています。

財源の多様化が必要

―― 二木先生は財源問題に関して、「消費税一本足打法」ではなく、租税財源の多様化と社会保険料の引き上げが不可欠とされています。

二木 私はコロナ以前から、医療保障制度に関して次の3 点をいつも強調しています。1点目国民皆保険制度が医療(保障)制度の枠を超えて、日本社会の安定性・統合性を維持する最後の砦となっていることです。もしこれが崩れれば、日本社会の底が割れてしまうことになるでしょう。2点目は、国会に議席を有する全政党が、国民皆保険制度の維持・堅持を主張していることです。3点目は、私はこれが非常に大事だと思っているのですが、医療費抑制政策を強行した小泉内閣が2003年閣議で、「必要かつ十分な」「最適の医療」の給付を決定していることです。

 国民皆保険制度を維持するとすれば、低所得者への配慮は不可欠だと思いますが、基本は社会保険方式なので、主財源は保険料です。補助的財源として消費税を含めた各種租税を使う形になるでしょうが、その租税財源の多様化が必要です。たとえば所得税の累進制の強化、固定資産税や相続税の強化、法人税率の引き下げ停止、内部留保への課税などが必要です。これらは所得再分配の改善や格差社会の是正にも有効です。慶應義塾大学商学部教授の権丈善一氏の言葉を借りれば「財源は全員野球」だと思います。

 コロナ危機後ではそれに加えて、東日本大震災後の復興特別税と同様に「コロナ復興特別税」のようなものを導入し、保健医療の充実に加えて、コロナ禍で医療同様に大きな被害を受けた介護・福祉事業や従業員の救済、失業者や経営困難に陥った企業の救済などを総合的に進めることを期待しています。これは願望であり、予測ではありません。

財政支援の根拠は「医療は社会的共通資本」

―― 二木先生は、COVID-19 拡大に伴う医療機関への財政支援の方法についても論じておられますが、その内容を教えていただけますか。

二木 医療機関への財政支援の最大の論点は、支援対象を、コロナ患者を受け入れた医療機関に限定すべきか否かだと思います。

 医療機関は公私の区別を問わず、国民の健康を守るために公的役割を果たしており、経済学者の故宇沢弘文氏の言葉を借りれば「社会的共通資本」です。医療安全保障の視点からも、医療機関の倒産や機能低下を防ぐために、経営困難に陥っている医療機関全体に対する公的支援が必要だと思います。

 具体的には短期的、つまり今年度は租税による緊急支援しかできないと思います。しかし、コロナ危機が来年度以降も継続する可能性が高いので、その場合は診療報酬による支援が必要だと考えます。その点で、神奈川県保険医協会の「診療報酬の単価補正支払い提案」注1 は、アイデアとしては非常に優れていると思います。この提案の良い点は、迅速な支払いが可能であること、それから医療機関に支払われているうち患者負担は1 点10 円のままであるという点です。財政制度等審議会の建議でも、「仮に措置が必要とすれば」という条件付きですが、「新型コロナの流行の収束までの臨時の時限措置としての診療報酬による対応に軸足を移すべき」と提案しており、今後、この具体化を期待したいところです。

―― 仮に医療機関へ税財源(予備費等)による支援を行う場合、他の中小企業等への支援と差がつくことになりますが、国民の理解は得られるでしょうか。

二木 それが一番重要な論点だと思います。中小企業等への支援と差を付ける根拠は、医療は社会的共通資本であることだと思います。医療従事者・医療機関への感謝の気持ちが高まっている現時点では、ある程度は理解が得られると期待しています。

医療のデジタル化・オンライン化は多面的かつ総合的に推進すべき

―― 医療分野でもオンライン診療を進めるべきだという意見がありますが、どのようにお考えですか。

二木 オンライン診療解禁の継続は、医療改革の本流ではありません。菅内閣は「オンライン診療の恒久化」と「不妊治療の保険診療化」を目指していますが、いずれも医療改革の本流ではないですが、医政局の担当です。医政局が本来すべき仕事は、コロナ危機に対応して地域医療構想をどう軌道修正していくかということですから、これは限られた人材の浪費だと思います。

 それから、再診患者のオンライン診療は2020年4 月の診療報酬改定で大幅に拡大されているため、「オンライン診療の恒久化」とは、コロナ危機への時限的・特例的措置として同月解禁された初診患者のオンライン診療の継続を意味します。しかし、これを無条件で拡大することには様々な疑問が出されており、厚生労働省も日本医師会も意見を出しています。今後は初診患者のオンライン診療の恒久化を巡って、官邸、厚生労働省、日本医師会の間で激しい攻防が生じると思いますが、菅首相の豪腕をもってしても初診の無条件解禁は困難でしょう。患者の安全を確保するための様々な条件・規制が加えられるのは確実でしょうし、日本医師会も推進している「かかりつけ医が関われば」というところに落としどころがあると思っています。

 私は中川日本医師会会長と同じく、医療のデジタル化・オンライン化を進めることには賛成の立場です。しかし、菅首相のように、デジタル化のごく一部を占めるにすぎない「オンライン診療の恒久化」だけを一点突破的に進めるのではなく、保険証のオンライン資格確認、診療への人工知能の補助的導入など、多面的なデジタル化を総合的に検討・推進すべきだと思います。

 それから、少なくとも今の時点では、オンライン診療で医療費が抑制されるという厳密なエビデンスはありません。逆に、不必要なオンライン診療が大幅に増え、医療費が増加する危険があります。なぜなら、オンライン診察料は対面診療に比べて安く、しかもオンライン診察では検査ができないことを考えると、ほとんどの患者はオンライン診療時の一部負担がOTC 医薬品の費用よりも相当安くなります。その結果、現在はOTC 医薬品で済ませて医療機関を受診していない軽症患者の相当部分が、OTC 医薬品よりも費用負担が安く、しかも対面診療よりも診察の待ち時間がはるかに短いオンライン診療に流れる可能性が大きいといえます。その結果、厚生労働省が推進しようとしているセルフメディケーション(医療機関受診からOTC 医薬品利用へのシフト)とは逆の患者の流れが生じ、総医療費も相当増えるのです。

医業経営コンサルタントに期待すること

―― 医療機関や介護施設の経営に関わる医業経営コンサルタントに対して、特に今回のコロナ禍を踏まえた対応について何かアドバイスをいただけますか。

二木 機関誌JAHMC は毎号、医業経営に有用な情報がマクロレベルとミクロレベルの両方で非常に充実していると感じています。コロナ危機の渦中で医業経営コンサルタントに特にお願いしたいことは、医療・介護施設に対して緊急包括支援交付金などに関する正確な情報をわかりやすく、かつ迅速に知らせることです。せっかく税金が確保されたのに、医療機関に対する緊急包括支援交付金の交付実績は11月16日時点でも予算の2割にすぎません注2。医療機関側が制度の複雑さによって十分に理解できず、本来申請できるのにまだ申請していないものもたくさんあると思われます。そういう点でやはり、アドバイスをする立場にある医業経営コンサルタントの役割は大きいと思います。

(聞き手:本誌編集専門委員/九州大学 名誉教授 尾形 裕也)

注1: 保険収入(保険給付)の減収分を「逆数値補正」した「支払い」単価(「減収」医療機関ごとに毎月変動補正単価とする)を、有事限定の告示改定で適用させるとの提案(例:80/100 減収なら100/80 の逆数値を使い1 点10 円× 100/80 =12.5 円を支払い単価とする)。患者負担へは適用しない。全国統一の単価補正での地域群別、診療科別係数補正、固定費保障水準までの譲歩、新規開業機関の指標など次善策・修正案も提案(神奈川県保険医協会ホームページより)。

注2: 厚生労働省ホームページ「自治体・医療機関向けの情報一覧(事務連絡等)(新型コロナウイルス感染症)」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00088.html)で、緊急包括支援交付金別・都道府県別の実績「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(医療分)の執行状況について」が随時公表されている。当協会ホームページのコンテンツ「新型コロナウイルス感染症 医療機関等への経営支援に関する情報」では、経済産業省、福祉医療機構、厚生労働省、中小企業基盤整備機構の補助金・助成金情報を提供している。

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3.インタビュー:新型コロナウイルスがもたらす日本の医療への影響

(『季刊くらしと協同』34号(2020年12月25日号):2-10頁。聞き手 加賀美太記就実大学経営学部准教授))

中国の湖北省武漢で新型コロナウイルスの感染者が確認されてから1年余りが経った。2020年12月現在、日本では全国的に第3波と呼べる程の感染者の増加が続いている。北海道や大阪府では医療体制が逼迫し、医療崩壊の懸念も高まりつつある。世界的にはイギリスでワクチン接種が始まるなど、新型コロナを巡る事態は刻々と変化している。

新型コロナと向き合ったこの一年間、私たちのくらしや日本社会はそれまでと大きく様相を変えざるを得なかった。とくに新型コロナウイルスに対応する医療分野への影響は深刻である。しかし、医療経済学・医療政策を専門とする前日本福祉大学学長の二木立名誉教授は、新型コロナウイルスをむしろ「中期的には、新型コロナは日本の医療の『弱い追い風』になる」と肯定的に評価されている。

これまでの日本の医療のあり方や、新型コロナウイルスがもたらす日本の医療への影響について二木先生にお話を伺った。

※インタビューは2020年11月24日午後に、リモートにて行いました。インタビューの内容は、その時点の情報に基づいたものです。

「弱い」追い風としてのコロナ

【加賀美】二木先生はインタビューで、新型コロナウイルス感染症が中期的には日本の医療にとって「弱い」追い風になる、と評価されておられます。改めて、日本における医療の現状と、新型コロナが「『弱い』追い風になる」という意味についてご教示ください。

【二木】私が、新型コロナウイルス感染症が中期的には日本の医療にとって「弱い」追い風になる、と書いたのは5月のことです。緊急事態宣言が続いていて、医療関係者でも医療崩壊が起きるんじゃないかと懸念している人が圧倒的に多かった時期です。

 私は医療政策の将来を予測する際には、常にプラス面とマイナス面、なおかつどちらの比重が高いかを見るようにしています。5月の時点では、皆の意見がマイナス面、極端に悲観的な方向に振れていたので、あえてプラス面に注目しました。ただ、プラス面と言っても、決してバラ色の内容ではないので、「弱い」追い風という括弧付きの表現にしたのです。

 また、コロナと医療の問題については、今回のコロナ危機が日本の医療の脆弱性を明らかにした、といった否定的な論調の人が思想の左右を問わず多いんです。私は、それは正しくないと思っています。もちろん日本の医療にはいろんな問題があるけれども、コロナ危機において、アメリカやヨーロッパ諸国と異なり、患者さんが医療を受けられないという意味での医療崩壊も、医療機関の経営破綻という意味での医療崩壊も、どちらもぎりぎりのところで日本は防げたんです。個々の医療機関では危機的なこともありましたが、日本の医療、より正確に言うと保健所も含めた保健・医療の関係者はとても頑張ったんです。アメリカやヨーロッパでは、医師や医療従事者が現場から逃避したことが報じられましたが、日本ではそういうことはほとんど起きなかった。医療従事者のモラル、士気も非常に高かった。彼らを励まし、希望をもってもらいたいと考え、あえてプラス面に力点を置きました。

 そうした背景の下、私が短期的にはともかく、5年程度の中期的には「弱い」追い風になるといったのは、次の2つの点からです。

 ひとつは、国民の医療に対する意識の変化です。私は1970年代から日本の医療の分析をしてきましたが、国民、それからマスコミにおいて、医療に対する評価がこれほど高まったのは初めてのことです。今までは、医療不信が強調され、マスコミが医療を取り上げるときは、医療機関の誤診とか誤療、あるいは医療機関の儲け過ぎといったネガティブな報道が多かったわけです。

 ところが、今回それがガラっと変わりました。日本の医療機関と医師、医療従事者の頑張り、また貧富の差なく誰でも医療を受けられる日本の医療の特徴がマスコミで大きく取り上げられ、国民もそれをよく理解したのです。繰り返しますが、こんなことは、この50年の間、一度もなかったことです。

 この医療に対する国民の信頼は、相当長く続くだろうと考えます。現在、第3波と言ってもよいと思いますが、再び感染者の拡大傾向が現れています。また、コロナが落ち着いた後も、他の新しい感染症、あるいはさまざまな大事故や大災害が起こり得る。いざとなったら医療は大事なんだということを国民は肌感覚で理解した筈です。これが医療にとっての一番の追い風です。どんな産業も国民の支持や共感なしに成り立ちませんから。

 ふたつめは、国民の医療への信頼を前提にして、今までは効率一辺倒で進められてきた保健所の縮小や再編、あるいは病床削減を目指した地域医療構想の大幅な見直しがなされるだろうということです。

 この2つの意味で、今回のコロナが医療にとっての追い風だと言ったわけです。

 ただし、残念ながら医療の大事さを国民は分かってくれましたけれど、一方でいま大変な経済的困難に直面しているため、負担を増やして社会保障財源を確保するという国民的合意には至ってはいません。政府も第1次と第2次補正予算で、コロナ以前と比べると桁違いの医療機関に対する支援を行っていますが、それらは全て一時的なものです。国民の医療に対する理解は深まったけれど、医療・社会保障の充実のための財源確保の道はまだ見えない。今のまま条件が変わらなければ、追い風は弱いままだ、というのが私の「弱い」追い風という主張の意味するところです。

【加賀美】今回、医療負担に対する合意が生まれたわけではないけれど、国民が医療に対する信頼を深め、必要性を広く認識したことが大事ということですね。

【二木】そうです。たとえば、日本の医療の問題点の1つとして、日本はプライマリ・ケア医制度が遅れているという主張があります。ところが、プライマリ・ケアが充実しているはずのヨーロッパでは大規模な医療崩壊が起こりました。また、イギリスやスウェーデンといったプライマリ・ケア医が制度化されている国では、軽い症状だと自由に医療機関を受診できません。それに対して、日本の医療はフリーアクセスです。ちょっと熱が出た場合も、安心して医療機関を受診できる。この医療へのアクセスの良さが、今回はよい意味で大きな影響を及ぼしたと思います。

 国民全員が公的医療保険に入っているだけでなく、医療機関に自由にかかれること、さらに平等にかかれるということが大事だと思うんです。ヨーロッパの国々、たとえばスウェーデンではICUには80歳以上の高齢者、あるいは80歳未満でも重度の合併症のある人は受け入れない、ということが国民の合意のもとで行われています。スウェーデンに限らず、海外のコロナ死亡患者の半分ぐらいは、いわゆる老人介護施設の入居者ですけど、その理由がこうした医療へのアクセスの悪さにあるわけです。日本ではICUへの入室、ECMOという特殊な呼吸補助の機械も年齢制限なしに受けられた。それが日本の国民の合意なわけです。日本では、貧富の差だけじゃなくて、年齢によらず、基本的な医療はきちんと受けられることが改めて国民の間で認識されたんだと思います。

国民皆保険という最後の砦

【二木】こうした日本の医療、とくにそれを支える国民皆保険制度は、今では医療の枠を超えて、日本社会の統合を維持するための最後の砦になっていると思います。コロナの前から主張してきたことですが、改めて、このことが明確になったのではないでしょうか。

 日本でもアメリカほどではないですが、国民の間で意見の対立があって、分極化・分断化が進んでいると言われていますが、国民皆保険を維持するという点に関しては、自由民主党から日本共産党まで全政党で一致しているんです。そんな政策、他の分野にはないですよ。

 加えて、国民皆保険制度を維持するとは医療保険の給付する医療サービスが「最低水準」ではなく、医療技術の進歩や国民の生活水準の向上に対応した「必要かつ十分な」「最適水準」であることが重要です。このことは2003年に小泉純一郎内閣で「医療保険制度体系及び診療報酬体系に関する基本方針について」として閣議決定されていますが、現在に至るまで、厚生労働省の公式文書や高官の答弁にも引き継がれています。この点は皆が認めているわけです。

 今の本当に色々な問題がある社会で、万が一、国民皆保険制度がなくなったら、社会の底が抜けてしまいかねません。国民皆保険制度は、今の日本の社会にとって、医療の枠を超えて大事なものなんですよと改めて強調しておきたいのです。

現在の医療支援の課題

【加賀美】2020年9月に菅内閣が発足しました。菅内閣の下で第3次補正予算案と2021年度当初予算案の編成が進む見込みです。第2次補正予算の評価や、今後の医療支援の展望や焦点について、ご意見をお聞かせください。

【二木】安倍内閣で成立した第2次補正予算については、予算の中身に入る以前に、10兆円という前代未聞の予備費が計上されている点が大きな問題です。これは、いわゆる「財政民主主義」を壊すやり方ですから、与党である自民党の石破茂元幹事長や、比較的政権に近い土居丈朗慶應義塾大学教授(財政学)等も批判しています。

 しかし、この補正予算は既に成立しています。もちろん予備費自体に問題はありますが、成立した以上は、コロナ対策にしっかりと使うほうが合理的ではないかと思います。

 その上で、第2次補正予算の医療機関に対する支援には、大きく2つの課題があります。

 ひとつめは、コロナ患者を受け入れた医療機関に対する支援に関するものです。第2次補正予算の「医療提供体制等の強化」は総額2兆9892億円とされています。この中には、コロナ患者を受け入れる重点医療機関の病床確保等(4700億円)、コロナ患者を受け入れた医療機関等の医療従事者・職員への慰労金(2900億円)、医療機関・薬局等の感染拡大防止策等の支援(2600億円)等が含まれます。とくに、コロナ対応の空き病床に最大30万円超を補助する「空床確保料」の補助と、医療機関の医療従事者・職員への慰労金を最大20万円、約310万人に支給することは、史上初めてとなる画期的な施策です。

 このように今までの歴史に比べて、たいへん充実した内容になっているのですが、現時点(2020年11月)で、実際に医療機関にどのくらい行き渡っているのかというと、これは共産党の小池晃議員が国会質問で指摘していましたが、10月15日時点で約3200億円、10月31日時点でも5000億円に留まります。つまり、計画の約2~3割しか医療機関には行き渡っていないという課題があるわけです。

 もうひとつの課題は、コロナ患者は受け入れていないが、患者の受診控えや感染対策への出費増等により経営困難に陥っている医療機関への支援がほとんど含まれていないことです。これは早急に何とかしないといけません。ここが、今の焦点になっていると思います。

 この点に関しては、たとえば厚生労働省の迫井医政局長等も、その必要性を認めています。また、自民党新型コロナウイルス対策医療系議員団本部や神奈川県保険医協会などが、具体的で面白いアイディアを提案しています。ただし、これらも煮詰まったものになっているわけではありません。財務省の財布の紐は固いでしょうが、地域医療を支えるという意味で、コロナ患者を受け入れていない医療機関にも支援をしないといけないと思います。

 先にお話ししたとおり、第2次補正予算には「10兆円」の予備費があります。5兆円は使い道がほぼ決まっていますが、残りの5兆円はまだ決まっていない。だったら第3波が起きつつある今こそ、この予備費の5兆円を使って、さらに手厚く医療機関を支援すべきだと考えます。

菅政権の医療政策

【加賀美】コロナの問題とは離れますが、菅政権はいわゆる新自由主義的な「小さな政府」志向が強いと指摘されています。こうした政権の政策志向は、医療政策についてはどのような影響を与えるとお考えでしょうか。

【二木】菅内閣の社会保障・医療改革方針については、『文化連情報』2020年11月号で整理しています。現時点では、菅政権の医療・社会保障について本格的に論じたのは、この論文だけだと思います。

 そちらでも述べていますが、実は菅首相の社会保障や医療改革への関心は極めて薄いのです。このくらい関心の薄い首相も、ちょっと珍しいのではないでしょうか。実際、菅内閣の社会保障・医療改革の柱とされているのは「不妊治療の保険適用」と、「オンライン診療の恒久化」の2点だけです。

 しかしこれらは医療改革の本筋ではありません。現在の医療改革の本筋は、地域医療構想と地域包括ケアですが、これらは、従来どおり厚生労働省が粛々と進めていくと思います。地域医療構想も地域包括ケアも、安倍内閣以前の民主党政権の時代から、二度の政権交代を経たにもかかわらず、それなりに一貫して進められているものですから、コロナをきっかけに様々な行き過ぎが是正されこそすれ、中止されたり見直されたりすることはないと思います。

 なお、安倍前首相と菅首相を比較すると、安倍前首相には割と「ウェット」な側面もあったけれど、菅首相はものすごい「ドライ」で強権的で「小さな政府」志向がより強く現れています。この点ではむしろ小泉元首相に近いでしょう。菅首相のブレーンにもそういった人が多いので、そこには注意を払うべきだと思います。

医療保障の財源は

【加賀美】二木先生は医療体制の整備などのため、中期的には「コロナ復興特別税」の導入も検討すべきと提言されておられます。一方、新型コロナにともなう経済的な打撃を軽減するためにも、時限的な消費税減税を図るべき、といった主張もあります。

【二木】私は今後の医療・社会保障を論じる場合に、もし社会保障機能を強化するという立場に立つならば、必ず財源とセットで論じなければならないと考えます。あるべき医療だけを掲げて、財源は知らないっていうのは無責任だと思うのです。

 2006年から私は一貫して、医療保障の財源は、主財源は社会保険料、補助的財源は消費税を含む公費とすべきと主張しています。なぜなら、先程もお話ししたとおり、今は国会に議席を有する全政党が国民皆保険制度の維持を主張しているからです。一時、維新の会が国民皆保険に否定的な論調を取っていたこともありましたが、今は維新の会も含めて、国民皆保険制度の維持が国会の合意なのです。そして国民皆保険制度は社会保険方式を採用しています。であるとしたら、理論的に主財源は社会保険料で、補助的財源は公費しかありえません。イギリスや北欧のように公費負担方式に変えるなら話は別ですが、今そんなことを言う政党は1つもないのですから、大枠はこれしかありえません。コロナの問題が発生したため、そうした大枠の上でコロナ復興特別税という提案をしているだけなのです。

 時限的な消費税減税を図るべきだという主張についてですが、たとえば消費税を5%に減税すると、1年間で約12.5兆円の税収減になります。ものすごい大幅減税です。では、それを補てんする現実的な財源はどうするのか。これを同時に示さなければ、社会保障の機能強化という問題は解決しません。

 実際、安倍前首相が消費税率の引き上げを2回も延期しましたが、その結果として4年間で20兆円の財源が失われました。社会保障の機能強化も、全部4年間先延ばしされてしまったのです。たとえば、年金を含めても所得が低い方の生活を支援するために、年金に上乗せして支給する年金生活者支援給付金制度があります。これは消費税率引上げ分を活用するものでしたから、低所得者が消費税引き上げの延期によって、むしろ大きな打撃を受けた事例です。

 最近は、MMT(現代金融理論)に依拠して、主権国家は国債を無制限に発行できると主張される方もいますが、MMTでも国債発行はインフレが起きていないという条件付きなんです。インフレが起きる可能性があるときは、増税によって通貨に対する需要を増加させるべきという話です。その際には歳出削減も進むので、社会保障関係費がもっとも抑制されることでしょう。

 それに、日本はアメリカを含めたすべての国と比較しても、相当に小さな政府になっています。だから財政の無駄を減らしても大きな財源を捻出できません。これは民主党政権時代の苦い教訓です。

 消費税を減税するとして、その代替財源もあわせて提案するべきなのに、残念ながら、それはどこの政党も提案していないのです。

 なお、私は消費税に万々歳と言ってるわけではありません。あくまでも消費税を含む公費を増やさざるを得ないと言っているだけです。消費税で社会保障の全てを賄う、いわゆる消費税1本足打法ではなく、租税財源の多様化(所得税の累進制の強化、固定資産税や相続税の強化、法人税率の引き下げの停止や過度の内部留保への課税等)が必要だと主張しているのです。

【加賀美】実は日本が諸外国と比べても、かなり小さな政府であるということは、あまり国民に浸透していないように感じます。そのためか、2000年代以降、公務員が非難の対象になってきたように思います。

【二木】その点一番いい例が、かつての維新の会じゃないでしょうか。維新の会は橋下徹さんが元気だったころは、今おっしゃったように、役所バッシングをしてましたよね。だけど、今の松井一郎市長と吉村洋文知事の体制になってから、それなりに福祉充実の政策もとるようになり、そうした政策が大阪での維新の会の支持につながっていると聞いています。

 ただ、やはり国民の公務員に対する理解は十分ではないと思っています。たとえば、つい先日『ブラック霞が関』(新潮新書)という本が出版されました。著者は千正康裕さんという、厚生労働省の元キャリア官僚です。社会保障・労働分野で8本の法律改正に関与する等、たいへんやり手であると同時に現場にどんどん出ていく素晴らしい官僚だったんです。ただ、無理しすぎて体を壊してしまい2019年に退職されたんですね。彼が自分の経験を通じて、今の霞が関の働き方に警鐘を鳴らしている本です。このままでは霞が関が機能停止すると。

 実際、この間厚生労働省の業務はべらぼうに大きくなってますよ。だけれども、定員はむしろ減らされてぎりぎりのところになっているそうです。7時に仕事開始で、退庁は27時20分。27時20分ってことは朝5時ですよ。こんな民間企業も鼻白む小さな政府を続けていては大変なことになるって警鐘乱打しているんです。

 先ほど、せっかく第2次補正予算でコロナ患者を受け入れた医療機関に対して、トータル約3兆円の支援がなされたけれど、医療機関に届いたのはまだ3000億円とか5000億のレベルだと言いましたけれども、これは必ずしも官僚や公務員の怠慢のせいじゃないんです。国でも自治体でも公務員をどんどん減らしてきたうえに、今回コロナの業務が集中して、現場がパンクしているっていうことなんですよ。

 要するに、今よりもさらに小さい政府を目指すと、国民、あるいは医療機関が求めている支援も遅れてしまうという水準にあるんだと思います。私は医療・福祉関係者だけでなく、多くの人がこの本をぜひ読むべきだろうと思います。志も高く、しかも力のある人も病気で辞めざるを得なかったということ、そうした小さな政府に今既になっていて、それが国民のくらしにも影を落としていることを、国民の側もちゃんと知る必要があると思います。

【加賀美】二木先生は書籍やインタビューのなかで、今後起こりうる災害等に対応できる「医療安全保障」の必要について述べられています。この「医療安全保障」について、改めてその内容をご教示ください。

【二木】この「医療安全保障」は、何か新語のようなものではありません。医療関係者の間では普通に使われている言葉です。たとえば、コロナ禍において必需品となったマスクも、その多くは中国からの輸入品ですよね。しかし、パンデミックのような事態では、輸入が止まることだってありうる。そうなると医療機器・医療用品の自給自足を図る必要がある。こうした意味で医療安全保障は使われています。

 一方で、私は日本の将来を見通したとき、必ず生じるであろう大災害(新たな感染症の発生、南海トラフ地震や首都直下型地震等の大地震、さらには富士山噴火等)にも迅速に対応することができるゆとりをもった医療が不可欠だと思います。そのためには効率一辺倒の地域医療構想のスタンスを見直して、「余裕」のある医療体制を築く必要があると考えています。こうした人間がくらしていくうえでの安全保障の延長という意味合いで、医療安全保障と使ったわけです。

 また、「余裕」という点では、けがの功名だと思いますが、「地域医療構想」で2025年の必要病床数を推計する際に、高度急性期病床の病床利用率を75%、(一般)急性期病床のそれを78%に設定したことは、結果的に極めて適切だったと思います。

 正直なところ、2015年に初めてこの数字を見たとき、ずいぶんゆるい基準だなと思ったんですよ。なぜかというと、現実の医療機関は最低90%、できれば95%ぐらいの病床利用率を維持しないと利益が出ないからです。しかし、今度のコロナを通して、厚生労働省が認めていた75%~78%ぐらいの病床利用率で運営しないと、とても危機には対処できないことがわかりました。

 事実、今回のコロナ危機では、患者の7割を公立・公的病院が受け入れたと厚生労働省の吉田学医政局長(当時)は国会で報告しています。私は、その理由を、コロナ患者を受け入れやすい高機能病院において公立病院の割合が高いだけでなく、公立病院の病床利用率が民間病院よりも低く、結果的に患者を受け入れる「余裕」があったためでもあると、推察しています。

 つまり、75%~78%ぐらいでも医療機関が経営を黒字化できる制度を目指せば、今回のような事態にも対応できる医療安全保障になると考えています。

コロナで社会的連帯意識は高まったのか

【加賀美】二木先生は、東日本大震災のときと比べると、新型コロナ禍では感染者の「自己責任」が問われるなど、社会的連帯意識が強まったとは言えない、と指摘されておられます。誰もが感染する可能性がある中で、なぜ「おたがいさま」とならずに、自己責任が問われ続けるのでしょうか。

【二木】やっぱり東日本大震災のときは、被災者が東北に限定されていて、なおかつ原発事故を除けばそれで終わりだったことが大きかったのでしょう。だから、それ以外の地域の国民は、いわば安全地帯にいたから、安心して支援できたんです。ボランティアにもどんどん行きましたし、私が学長をしていた日本福祉大学からも多くの学生が支援に赴いて、ずいぶんと鍛えられたことをよく覚えています。

 ただ、当時の全てを美化することはできません。現在も残っていると思いますが、当時は原発事故が生じた福島県民と福島県産食品に対する差別意識が、ものすごく強かったですよね。

 今回の事態では、全国民が潜在的に患者になりますし、期間も限定ではありません。NHKの国民意識調査でも、実に国民の80%が不安を感じていることがわかります。こうした不安に駆られ、多くの人が自己防衛に走っているのだと思います。さらに、政府広報が個人責任を強調しましたよね。

 そのため、まずは感染しないようにと自己防衛感が高じて、患者への差別につながり、あろうことか患者を治療する医療従事者、あるいは福祉施設の従事者まで差別するなんてことが起こったんだと私は思います。

 今ではうつさない、うつらないが合い言葉になりましたよね。これは言い換えれば、他人との交流をやめろということと同義です。そのため、東日本大震災のときのように、社会連帯という意味での国民意識は、あんまり強まらなかったのではないかと思っています。

これからの日本医療とコロナとの向き合い方

【加賀美】最後になりますが、今後の医療体制を社会全体で考える上で必要な論点と、さらに私たちはコロナに対してどう向き合うべきか、先生のご意見をお聞かせください。

【二木】最初の話の繰り返しになりますけれど、今回のコロナを通して分かったことは、保健所を含めた、保健・医療体制を維持することが、いかに大事かということです。国民皆保険制度と医療へのフリーアクセス、さらに日本の医療の質の高さ、医師や医療従事者の髙いモラルと志気、そういう点を守ることの大事さは広く国民の間で共有されました。

 そして、そのためには当然ながらお金がかかります。お金の話は避けては通れません。とくに医療・福祉の費用は人件費の塊のようなものです。だから費用を抑制するということは、現場で働く職員の数を減らす、あるいは彼らの賃金や労働条件などを悪くするということになります。

 今日は時間の都合で医療のことしか説明できませんでしたが、日本では福祉分野もずいぶんと頑張ったと思うんです。先ほども言いましたけど、アメリカやヨーロッパ諸国では、死亡者の半分ぐらいは、いわゆる高齢福祉施設にいるお年寄りなんです。だけど日本の場合は、もちろん高齢者の死亡率は高いですけれど、高齢福祉施設での死亡はそこまで多くありません。これは日本の老人福祉施設における、ケアの水準の高さによるものだと思います。

 そうした医療と福祉を守るには、より「余裕」を持った医療、福祉体制へと変えなければならない。そのためには、人員を増やさなければいけない、賃金や労働条件も良くしないといけない。そのためには、お金がかかります。そうした財源の問題は、避けられがちですが、真剣に議論するべき問題です。

 また、コロナについては、私は過剰におびえる必要はないと思っています。私は以前のBuzzFeed Japanのインタビューでも申し上げましたが、かつてのペストなどと違ってコロナで社会は大きくは変わらないと考えています。

 今は第3波ということで感染者と死亡者が拡大していますが、それでも日本の死亡者は2,000人を超えたくらいです。これは例年のインフルエンザの死亡者に比べても少ないくらいなんです。しかも、今年はコロナでみんながみんな自己防衛したから、インフルエンザ患者が驚くほど少ないんです。そのため、アメリカやヨーロッパ諸国と違い、超過死亡という、例年の死亡者数に上乗せしてコロナ死亡者が増えたということはありません。むしろ増えているのは自殺のほうです。

 これらを踏まえると、決してパニックにはなる必要はないと思います。政府も提唱しているし、生協でも広報していると思いますが、いわゆる3密を避けるとか、人と会うときはマスクをするとか、そういう基本的な防衛をすれば、コロナ罹患率はそこまで高くなるわけではありません。それにそうした自己防衛をした上で感染するのだったら、それこそ「お互いさま」の世界です。きちんと感染予防の努力をする必要はあるけれども、過剰に不安になる必要もありません。

【加賀美】わかりました。本日は貴重なお話をありがとうございました。

【文献】

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4.最近発表された興味ある医療経済・政策学関連の英語論文(通算179回)(2020年分その11:7論文)

「論文名の邦訳」(筆頭著者名:論文名.雑誌名 巻(号):開始ページ-終了ページ,発行年)[論文の性格]論文のサワリ(要旨の抄訳±α)の順。論文名の邦訳中の[ ]は私の補足。

○緊縮による死?イタリアにおける費用抑制が避けられる死亡に与えた影響
Arca E, et al: Death by austerity? The impact of cost containment on avoidable mortality in Italy. Health Economics 29(12):1500-1516,2020[量的研究]

医療における緊縮は健康と医療アウトカムに影響するか?医療部門の費用抑制を目的としたイタリアの「財政回復計画」(Piano di Rientro。20州のうち主として南部の10州で、2007~2010年に順次導入)の意図した通りの効果と意図せざる効果を検証した。財政回復計画導入前後の2004~2014年間のデータを用い、操作変数法により、同計画開始により生じた経時的及び地理的変動を計測した。その結果、緊縮政策は費用抑制により、主として南部の財政赤字の削減には成功したが、それは男女ともに、効果的でタイムリーな医療により避けられる死亡(Nolte and MeKee,2004)の3%増加、病院の収容能力(病床数等)の減少、及び南部から北部への患者移動をもたらしたことを見いだした。これらの結果は、避けられる死亡が比較的少ないイタリアのような高所得国でも、費用削減は患者の生存に悪影響を及ぼすことを示唆している。

二木コメント-イタリアにおける医療費抑制の「社会実験」の詳細な計量経済学的分析です。イタリアで新型コロナウィルス感染症(covid-19)により文字通りの「医療崩壊」が生じた背景がよく分かります。

○富裕層に対する主要な減税の経済的影響
Hope D, e al: The economic consequences of major tax cuts for the rich. Working Paper 55, International Inequalities Institute of the London School of Economics and Political Science, December 2020 (量的研究)(ウェブ上に公開)

本論文はOECD加盟18か国の過去50年間(1965-2015年)のデータを用いて、富裕層に対する主な減税が所得不平等、経済成長および失業に与える影響(因果関係)を推計する。まず、富裕層に対する課税を測定する新しい包括的尺度を用いて、課税の累進制の低下を同定する。次に、パネルデータ分析のマハラノビス・マッチングを用いた差の差指標のノンパラメトリック一般化により、減税と経済的アウトカムとの因果関係を検討する。その結果、富裕層減税の主な改革は、所得不平等(課税前国民所得中の上位1%の割合で測定)が上昇したことを見いだした。この影響は短期的にだけでなく、中期的にも続いていた。他面、このような改革は経済成長(1人当たり実質GDPの伸び率)と失業率に対して、短期的にも中期的にも、有意な影響を与えなかった。

二木コメント-本研究は、富裕層に対する減税が、経済成長を促進し、失業率を低下させるとの「トリックルウン(trickle down)」説に対する反証になっていると思います。

○病院ガバナンスをバランスさせる:15年間の実証研究の体系的文献レビュー
De Regge M, et al: Balancing hospital governance: A systematic review of 15 years of empirical research. Social Science & Medicine 262(2020)113252. [文献レビュー]

組織的ガバナンスの特徴とそれが病院のパフォーマンスにどのように寄与するかをより深く理解することは重要である。医療ガバナンス研究は伝統的には理事会(governing bodies)の規模と構成(特質(attributes))に焦点を当ててきたが、それのダイナミックス、プロセスおよび役割には余り注意を払ってこなかった。さらに、理事会と経営管理者(executive management)の相互関係についてのエビデンスは欠落している。そこで、本体系的文献レビューは、公開されている実証研究の知見を統合することで、特質、ダイナミックスとプロセス、及び理事会の役割について詳細に要約することを目指す。Kane等の分析枠組みを結果の位置づけに用い、その際、外的制約とアウトプット/パフォーマンスを考慮した。文献レビューの対象は過去15年間に発表された63研究である。多くの研究は特質(n=34)と役割(n=27)を扱っていた。ダイナミックスとプロセスに焦点を当てた研究は11にすぎなかった。特質についての研究知見には一貫性がなく、病院ガバナンスのダイナミックスとプロセスに焦点を当てた研究はほとんどなかった。しかし、病院理事会への臨床医の参加と病院理事会の役割で質に焦点を当てることには便益があることが示された。本研究は病院ガバナンスにおいて何がベスト・プラクティスであるかについての十分な方向性は示していない。そこで、ガバナンスの側面とそれがパフォーマンスに与える影響を理解するための有用な分析枠組みを示し、それらを一般の企業ガバナンスと比較し、今後の研究方向を提案する。

二木コメント-論文名は魅力的で、詳細な文献レビューも行っており、病院のガバナンスの研究者には有用と思います。残念ながら実際の病院経営改善に役立つ知見は得られていませんが、「転んでもただでは起きない」で14頁の論文にまとめる根性は立派(?)です。

○[アメリカにおける]医師グループ診療の特性の経時的変化はメディケア医療費と医療の質と関連しているか?
Baker LC, et al: Are changes in medical group practice characteristics over time associated with Medicare spending and quality of care? Medical Care Research and Review 77(5):402-415,2020[量的研究]

経時的に見ると、医師診療所の規模は拡大しつつあり、病院所有の診療所も増えつつある。2時点(207-2009年と2012-2013年)の医師診療所のデータを用い、それをメディケア医療費請求データとリンクして、医師診療所の規模の変化や病院による所有がケアマネジメント、健康情報技術(HIT)や質改善プロセスと関連しているか否かを調査した。その結果、診療所の規模拡大と病院による所有は質改善プロセスの採用と関連していたが、ケアマネジメントやHITとは関連していなかった。次に、診療所の規模拡大や病院による所有とメディケア医療費、退院後30日以内の再入院率、適切な外来診療で入院を減らせる疾患の入院割合(ambulatory care sensitive admission rates)との関連を検討した。その結果、関連はほとんど認められなかったが、ケアマネジメントの利用は適切な外来診療で入院を減らせる疾患の入院割合の低さと関連していた。本研究の寄与は次の2点である:①単なる横断調査ではなく2時点で比較した、②診療所の規模拡大と病院による所有が医療の質改善に結びつくか否かを検討した。

二木コメント-診療所の規模拡大と病院所有の増加が医療の質を改善させるとするナイーブな通説に、疑問を呈した実証研究です。

○多職種連携が慢性疾患のマネジメントに与える影響:臨床試験の体系的文献レビューとメタアナリシス
Pascussi D, et al: Impact of interprofessional collaboration on chronic disease management: Findings from a systematic review of clinical trial and meta-analysis. Health Policy 2020 Dec 16;S0168-8510(20)30317-1. doi: 10.1016/j.healthpol.2020.12.006. (文献レビュー)
→Health Policy 125(2):191-202, February 2021

慢性疾患マネジメントの改善は医療と社会的ケアとの効果的連携を求めており、それはチームワークを通して実現する。多職種連携教育(IPE)と多職種連携(IPC)は効果的・効率的医療提供にとって必須だと認識されている。IPCとIPEはプライマリケアの主要要素だが、IPCに先立つIPE介入が、通常の医療に比べて、慢性疾患患者のアウトカムを改善するかを評価した研究のエビデンスはほとんどない。

IPC介入の慢性疾患マネジメント、それの臨床的アウトカムとプロセス・アウトカムに与える影響についてのランダム化比較試験の体系的文献レビューとメタアナリシスを行った。11,128論文を検索し、最終的に23論文を選んだ。以下、そのうち13論文のメタアナリシスの結果を示す:収縮期血圧の低下(差の平均-3.70;95%信頼区間-7.39~-0.01。以下同じ)、HbA1cの低下(-0.20;-0.47~0.07)、LDLコレステロール値の低下(-5.74;-9.34~-2.14)拡張期血圧の低下(-1.95; -3.18~0.72)、在院日数の短縮(-2.22;-4.30~-0.14)。IPCに関連したアウトカムでいくつもの肯定的結果が得られたが、これは医療の質の改善、患者中心の連携医療の強化を意味している。

二木コメント-IPCの慢性疾患マネジメントに対する医学的効果についての体系的文献レビュー・メタアナリシスは極めて少なく、IPC研究者必読と思います。ただし、①メタアナリシスの対象とした文献は、項目別に見るとごく少ない(2~6)こと、②「医療と社会的ケアとの効果的連携」と言いながら、メタアナリシスの項目が検査データの改善と在院日数の短縮のみであることは気になります。

○[アメリカ退役軍人庁の]外来精神科クリニックにおける多職種連携医療実施の経済分析
Miller CJ, et al: An economic analysis of the implementation of team-based collaborative care in outpatients general mental health clinics. Medical Care 58(10):874-880,2020[量的研究]

「連携慢性医療モデル」(Collaborative Chronic Care Model)は、精神疾患を含む慢性疾患医療のエビデンスに基づいた方法である。しかし、精神保健分野での連携医療の費用を検討した研究はほとんどない。そこで、退役軍人庁の9か所の外来精神科クリニックでの連携医療(5-9の専門職が治療に関与)実施の経済分析を行った。医療制度の視点からの費用最小化分析を行い、費用には連携医療の実施費用、外来医療費、連携医療実施前の1年間の入院医療費、及び実施年の入院医療費を含んだ。差の差法を用い、一方向感受性分析等により結果の頑健性を評価した。

治療群は、連携医療を実施した9クリニックを受診した5507人の患者である。対照群は、上記クリニックと同じ退役軍人庁のメディカルセンター内で通常の精神科医療を受けた患者45,981人である。連携医療の実施費用は1人当たり約40ドルであり、連携医療により入院医療費は有意に減少し、外来医療費は増えたが有意ではなかった。その結果、連携医療の実施により1人当たり78ドルの医療費が節減された。このことは、連携医療の実施費用1ドル当たり、約1.70ドルの費用節減が生じたことを意味する。

二木コメント-「介入費用」(多職種連携医療の実施費用)を明示している点ではマトモな経済分析です。1人当たりの介入費用と医療費節減を比較している、アメリカらしい経済分析と言えます。ただし、対象は退役軍人であり、この結果がどこまで一般化できるかは分かりません。

○カナダ・オンタリオ州における医師グループ、医師と患者特性と多職種連携チームのプライマリケアへの参加[との関連]
Haj-Ali W, et al: Physician group, physician and patient characteristics associated with joining interprofessional team-based primary care in Ontario, Canada. Health Policy 124(7):743-750,2020
[量的研究]

世界中の国々がプライマリケア提供の新しいモデルの実験をしている。カナダ・オンタリオ州における、医師グループ、医師と患者特性と、医師の多職種連携チームのプライマリケアへの自主的参加(以下、チームへの参加)との関連を調査した。オンタリオ州では過去20年間にプライマリケア医の3分の1が自主的に、伝統的な出来高払いから多職種連携チームの混合型人頭払い(人頭払いに一部出来高払いを加味)に移行している。多職種連携チームは典型的には、医師、看護師または開業看護師(nurse practitioners)、及び1つ以上の他専門職(薬剤師、ソーシャルワーカー、栄養士等)で構成されている。本研究は横断研究で、州のさまざまな行政データセットをリンクして、2005年初から2013年末までの期間の必要なデータを抽出した。一般化カイ二乗・多変量モデルを作成して医師のチーム参加と不参加との特性を比較した。

その結果、医師数が多いグループに参加している医師、女性医師、混合型人頭払いの期間が長い医師、低所得の患者や農村部の患者が多い医師のチーム参加は有意に高かった。女性医師で、男性患者が多いか、最近カナダに移住し農村部に住んでいる患者の割合が高い医師は、調査の後期にチームに参加していた。以上の結果は、医師のチーム参加は、医師グループ、医師と患者の特性により異なることを示している。医師のチームへの参加の拡大を目指している他の国はこれらの要因に注意を払うべきである。

二木コメント-本研究は医師の多門職連携チームへの参加には、医師の個人的嗜好以外の要因が関わることを示しています。ただし、チーム参加群と不参加群との差は大きくはありません。また、本論文は医師のチームへの参加がアウトカム(健康アウトカムと医療費)にどのような影響を与えるかは検討していません。

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5.私の好きな名言・警句の紹介(その194)-最近知った名言・警句

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