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『二木立の医療経済・政策学関連ニューズレター(通巻181号)』(転載)

二木立

発行日2019年08月01日

出所を明示していただければ、御自由に引用・転送していただいて結構ですが、他の雑誌に発表済みの拙論全文を別の雑誌・新聞に転載することを希望される方は、事前に初出誌の編集部と私の許可を求めて下さい。無断引用・転載は固くお断りします。御笑読の上、率直な御感想・御質問・御意見、あるいは皆様がご存知の関連情報をお送りいただければ幸いです。


目次


お知らせ

論文「『平成30年版厚生労働白書』の社会保障改革方針をどう読むか?」を『日本医事新報』2019年8月3日号に掲載します。同論文は、本「ニューズレター」182号(2019年9月1日配信)に転載する予定ですが、早く読みたい方は掲載誌をお読み下さい。


1. 論文:「骨太方針2019」の社会保障改革方針をどう読むか?

(「深層を読む・真相を解く」(87)『日本医事新報』2019年7月6日号(4967号):58-59頁)

安倍晋三内閣は6月21日、「経済財政運営と改革の基本方針2019」(以下、「骨太方針2019」)を閣議決定しました。私はこれの最大の特色は、本年10月1日の消費税率10%引き上げとそれへの対応を明記し、野党だけでなく与党の一部からも出されていた引き上げ延期論を封じたことだと思います。 本稿では、「骨太方針2019」のうち「社会保障改革」に関わる部分(第2章1(2)全世代型社会保障への改革と第3章2(2)主要分野ごとの改革の取組①社会保障)について、昨年の「骨太方針2018」との異同を中心に検討します。

「全世代型社会保障」改革の中身が変わった

「骨太方針2019」の社会保障改革のキーワードは、「骨太方針2018」と同じく、「全世代型社会保障」です。しかし、両者には2つの違いがあります。

1つは、「骨太方針2018」では「全世代型社会保障」が本文で8回も使われた半面、目次・見出しでは一度も使われていなかったのに対して、「骨太方針2019」では「全世代型社会保障への改革」が「成長戦略実行計画をはじめとする成長力の強化」の柱と位置づけられたことです。

もう1つは、「全世代型社会保障」の中身が大きく変わったことです。「骨太方針2018」では「全世代型社会保障」は子育て・少子化対策と財政健全化との関連で述べられました(「全世代型社会保障の構築に向け、少子化対策や社会保障に対する安定財源を確保する」4頁)。これは、安倍首相が2017年9月25日の記者会見で、「子育て世代への投資を拡充するため」「再来年[2019年]10月に予定される消費税率10%への引き上げによる財源を活用しなければならないと判断した」と述べたことに対応していました。

それに対して、「骨太方針2019」は、「全世代型社会保障への改革」を次の3本柱としています。①70歳までの就業機会確保、②中途採用・経験者採用の促進、③疾病・介護の予防(13-15頁)。②は就職氷河期世代の支援策で、安倍首相が7月に予定されている参議院議員選挙を意識して、4月に集中支援を打ち出したと報じられています(「中日新聞」6月12日朝刊)。①と②には積極的な施策も含まれていますが、それらは「労働・雇用政策」であり、伝統的な「社会保障」とは異なります。

「疾病・介護の予防」の記述は穏健化

「骨太方針2019」で、③(疾病・介護の予防)が新たに「全世代型社会保障」に含まれたのは、安倍首相が、昨年9月、医療保険で予防・健康にインセンティブを置くことによって「医療費が削減されていく」と発言したことに対応しています。この前後から、経済産業省は「予防・健康管理への重点化」で、総医療費が減少するとの主張を繰り返しました(本連載(82)。No.4936、2018年12月1日)。

しかし、「骨太方針2019」では「疾病・介護の予防」の意義は、以下の穏健かつバランスの取れた記述に落ち着きました。「予防・健康づくりには、①個人の健康を改善することで、個人のQOLを向上し、将来不安を解消する、②健康寿命を延ばし、健康に働く方を増やすことで、社会保障の『担い手』を増やす、③高齢者が重要な地域社会の基盤を支え、健康格差の拡大を防止する、といった多面的な意義が存在している」(15頁)。

実は「骨太方針2018」には、「予防・健康づくり等による受療率の低下や生産性向上の実現」というエビデンスに基づかない断定的記述がありました(54頁)。それに対して、「骨太方針2019」では、「疾病・介護の予防」の「(iii)エビデンスに基づく政策の促進」で、以下のような慎重な記述がなされました。疾病・介護予防促進の「改革を進めるため、エビデンスに基づく評価を取組に反映していくことが重要である。このため、データ等を活用した予防・健康づくりの健康増進効果等を確認するため、エビデンスを確認・蓄積するための実証事業を行う」(16頁)。この記述も妥当と思います。

具体的改革は「骨太方針2020」に先送り

「骨太方針2019」の社会保障改革方針の最大の特徴は、患者・国民の負担増を含め、ほとんどの改革が、以下のように1年後の「骨太方針2020」等に先送りされことです。「年金及び介護については、必要な法改正も視野に、2019年末までに結論を得る。医療等のその他の分野についても、(中略)骨太方針2020において、給付と負担の在り方を含め社会保障の総合的かつ重点的に取り組むべき政策を取りまとめる」(56頁)。

この点は、「骨太方針2018」が、「負担能力に応じた公平な負担、給付の適正化、自助と共助の役割分担の再構築」の項(59-60頁)で、「後期高齢者の窓口負担の在り方」、新規医薬品や医療技術の保険収載等に際しての「保険外併用療養の活用など」、「薬剤自己負担の引上げ」、「外来受診時等の定額負担導入」等の「検討」を予告していたのと対照的です。この先送りの理由は言うまでもなく、7月に予定されている参議院議員選挙で負担増が争点化するのを避けるためであり、選挙後はこれらの改革の検討が一挙に始まると思います。

「医療提供体制の効率化」の新方針

「医療提供体制の効率化」は、「社会保障」改革中の「医療・介護制度改革」の(ii)ですが、大半が「骨太方針2018」の踏襲・コピーであり、新味に欠けます。「骨太方針2019」で新しく提起された重要な改革は、次の2つです。

1つは、「真に地域医療構想の実現に資するものとする観点から必要な場合には、消費税財源を活用した病床のダウンサイジング支援の追加的支援方策を講ずる」(60頁)ことです。これは「骨太方針2018」の「病床のダウンサイジング支援の追加的方策を検討する」(56頁)の具体化と言えます。

もう1つは、「精神病床については、認知症である者を含めその入院患者等が地域の一員として安心して自分らしい暮らしをすることができるよう、精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築など基盤整備への支援等を講ずる」としたことです(60頁)。私は、地域包括ケアの対象を精神障害者にも拡張することは妥当だと思います。

ここで見落としてならないことは、この方針は、「諸外国と比べて高い水準にとどまる入院日数の縮小を目指す」方針の一環として、示されていることです。現在、「地域医療構想」の「2025年の医療機能別必要病床数の推計」からは精神科病床は除外されていますが、この方針は、精神科病床も「地域医療構想」に組み込み、それの削減を目指すことを示唆したものと言えます。

2020年度診療報酬改定の中心は調剤料引き下げ

「医療・介護制度改革」の最後の「(iv)診療報酬・医薬品等に係る改革」で注目すべきことは、診療報酬本体の改革についてほとんど触れていないことです。このことは、2020年度の医療機関に係る診療報酬改定が2018年度改定と比べてマイナーなものになることを示唆しています。私は2018年度診療報酬・介護報酬同時改定で、2025年度に向けた改革の大枠は示されたと判断しています。

この項の2020年度診療報酬改定に係る記載の肝は、次の1文と思います。「調剤報酬について、2018年度診療報酬改定の影響の検証やかかりつけ機能の在り方の検討等を行いつつ、地域におけるかかりつけ機能に応じた適切な評価や、対物業務から対人業務への構造的な転換の推進やこれに伴う所要の適正化等、2020年度診療報酬改定に向け検討する」(62頁)。

このことは、2020年度診療報酬改定では、かかりつけ機能を果たさず、患者に薬を出すだけの業務しかしていない薬局の調剤報酬が大幅に引き下げられること、およびそれが引き金になって薬局の再編が進むことを示唆しています。

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2. 最近発表された興味ある医療経済・政策学関連の英語論文(通算161回)(2019年分その5:7論文)

「論文名の邦訳」(筆頭著者名:論文名.雑誌名 巻(号):開始ページ-終了ページ,発行年)[論文の性格]論文のサワリ(要旨の抄訳±α)の順。論文名の邦訳中の[ ]は私の補足。

○OECD加盟国の医師と看護師の不足と過剰を予測する:何が見えているか
Scheffler RM, et al: Projecting shortages and surpluses of doctors and nurses in the OECD: What loom ahead. Health Economics, Policy and Law 14(2):274-290,2019[量的研究]

医療マンパワーが医療制度の中心的要素であることへの異論はほとんどない。医師と看護師の養成には数年間必要だし、新しい学校の建設はさらに長期間かかるため、医療マンパワーの開発の予測が必要とされる。本研究では、OECD加盟国の2030年の医師と看護師の需要の予測モデルを開発する。本モデルは医療需要に影響する、1人当たり所得、自己負担医療費割合、65歳以上人口割合の3つを説明変数として用いている。医師と看護師の供給は、各国ごとの自己回帰和分移動平均モデル(autoregressive integrated moving average models)を用いて推計する。それにより、もし現在の趨勢が続いた場合には、いかに大きな医師・看護師数の不均衡が生じるかが明らかになる。十分なデータがあるOECD加盟国については、2030年の医師と看護師の需要、供給、及び不足または過剰を示す。2030年には、医師は32加盟国(日本を含む)全体では40万人近く不足し、看護師は23加盟国(日本を含まない)で250万人近く不足すると予測する。最後にこの結果について考察し、医師・看護師不足に対処するため政策を示唆する。

二木コメント-日本で行われている必要医師数の将来予測とはまったく異なる変数を用いた予測です。このモデルでは、日本の2030年の医師需要は37.4万人(95%信頼区間:31.9万人~43.8万人)、供給は32.5万人でその差は4.9万人と計算されるそうです。

○[アメリカの]職場でのウェルネスプログラムが被用者の健康と経済的アウトカムに与える影響:ランダム化比較対照試験
Song Z, et al: Effect of a workplace wellness program on employee health and economic outcomes A randomizend clinical trial. JAMA 321(15):1491-1501,2019[量的研究]

雇用者は職場でのウェルネスプログラムへの投資を増やし、それにより被用者の健康を改善し医療費を抑制しようとしている。しかし、そのような効果を確証する実験的エビデンスはほとんどない。本研究の目的は、全米の雇用者と類似している多様な職場でのウェルネスプログラムを評価することである。クラスター化ランダム化試験を全米の160の職場で、2015年1月~2016年6月に行い、この期間医療費請求データや雇用関連データ等を継続的に収集した。治療群は20職場(被用者4037人)、対照群(ウェルネスプログラムなし)は140職場(同28,936人)である。ウェルネスプログラムは栄養、身体運動、ストレス軽減等に焦点化した8つのモジュールで構成され、職場に配置された有資格栄養士が実施した。

4つのアウトカム領域を評価した。それらは、自己申告の健康と行動(29アウトカム)、健康スクリーニングによる健康の臨床評価(10アウトカム)、医療費と医療利用(38アウトカム)と雇用アウトカム(3アウトカム)である。被用者32,974人(平均年齢38.6歳)のうち、初回の平均参加率は治療群で36.2~44.6%、対照群では34.4~43.0%であった。18か月後には、80アウトカムのうち、2つの自己申告アウトカム(規則的な身体運動への参加と積極的な体重マネジメント)は治療群の方が、対照群よりも有意に高かった:前者は69.8%対61.9%、後者は69.2%対54.7% 。しかし、それら以外の78アウトカム(自己申告指標27、客観的健康指標10、医療費・医療利用指標38、雇用指標3)については、両群に有意差はまったくなかった。以上の結果は、ウェルネスプログラムは短期的にも投資に見合った経済的効果をもたらすという期待に疑問を呈している。

二木コメント-ランダム化比較試験により、職場でのウェルネスプログラムの効果を、80ものアウトカム指標を用いて1年半も追跡調査したスゴイ研究ですが、結果は「悲惨」の一語です。私は今までたくさんの医療の経済評価論文を読んできましたが、これほど多数の「ネガティブデータ」を正直に示した論文は初めてです。日本で経済産業省が推進している「健康経営」事業についても、本研究のような厳格かつ包括的な費用対効果評価が求められると思います。

○[アメリカでの]高齢者に対するケアマネジメント:看護師、ソーシャルワーカー、医師の役割
Donelan K, et al: Care management for older adults: The roles of nurses, social workers, and physicians. Health Affairs 38(6):941-949,2019[量的研究]

ケアマネジメントプラグラムは、医療制度がケアの全領域(特に虚弱高齢者のケア)でサービスのコーディネーションと統合を改善するよう変化する中で、より広く採用されるようになっている。いくつかのケアモデルは、これらの活動を支援するために看護師(RN)やソーシャルワーカーを含むことを示唆している。2018年に、363の虚弱高齢者対象のプライマリケアまたは高齢者医療の診療所で働く410人の医師を対象とした全国調査を行った。

その結果、医師の39.7%は診療所に看護師も医師がいないと回答した。両職種がいたのは15.4%、看護師のみがいたのは40.4%、ソーシャルワーカーのみがいたのは4.5%であった。両職種が診療所で働いた場合、ソーシャルワーカーは看護師に比べて社会ニーズの評価により多く関わり、看護師はソーシャルワーカーに比べてケア・コーディネーションにより多く関わると、医師は報告した。医師の社会ニーズ評価やケア・コーディネーションに対する関わりは、ソーシャルワーカー、看護師、または両者が診療所に雇用された場合、明らかに低下していた。

二木コメント-アメリカの診療所の看護師、ソーシャルワーカー雇用とケアマネジメント実施状況についての貴重な調査です。ただし、結果と解釈は「予定調和的」です。なお、Health Affairs誌2019年6月号(38巻6号)の特集は"community care for high-need patients"(高ニーズの患者のための地域ケア)で、本論文を含めて18論文を掲載しています。

○失業者は高齢者ケアのために訓練できるか?[ドイツにおける]高齢者ケアの補助金付き訓練の効果
Dauth C, et al: Can the unemployed be trained to care for the elderly? The effects of subsidized traning in elderly care. Health Economics 28(4):543-555,2019[量的研究・政策研究]

人口高齢化により高齢者ケアのニーズが増えている。失業労働者を訓練することは高齢者ケア看護師の供給を増やす一つの方法かもしれない。2013年現在、ドイツの高齢者ケア労働者の55%は有資格看護師で、45%は高齢者ケア助手等の非熟練労働者である。本研究は失業者に対する補助金付き訓練の効果を、高齢者ケア専門職について、過去11.5年(2003~2015年)のデータを用いて分析する。その結果、短期間の継続訓練(further training。数週間~数ヶ月)と長期間の再訓練課程(原則3年)とも、高齢者ケア部門の長期雇用を増やしていた。訓練を受けた(潜在)看護師のうち約25~50%が高齢者ケア部門で正社員の職(permanent jobs)を得ており、その結果、現在雇用されている全看護師のうち約5%はかつて訓練を受けた失業者であったと推計できる。

二木コメント-世界的にも有名なドイツの補助金付き職業訓練プログラムの効果を、高齢者ケア部門で示した貴重な報告と思います。

○終末期の高齢者のQOLを最大化するためのサービス提供モデル:迅速文献レビュー
Evans CJ, et al: Service delivery models to maximize quality of life for older people at the end of life: A rapid review. The Milbank Quarterly 97(1):113-175,2019
[文献レビュー]

全世界で人口高齢化が急速に進んでいる時代の優先事項は高齢者の医療・サービスを調整することである。本論文は、医療・社会・福祉サービス全般にわたって、終末期の高齢者のQOLを最適化するためのサービス提供モデルについての全世界のエビデンスの包括的合成を目指す。そのために体系的文献レビューの迅速簡易レビュー(rapid scoping review)を行った。Medline等4つのデータベースを用いて、2000~2017年に発表された、高齢者のQOLを最適化することを目的にしたサービスモデルの効果を報告している文献レビューを探索した。

2238文献レビューから最終的に72レビューを同定し、その中にはメタアナリシスを行ったレビューが20含まれていた。それらはWHOの全地域を代表していたが、52はアメリカ、46はヨーロッパ、及び28は西太平洋地域からの報告だった。我々は2つの包括的サービスモデル分類を同定したが、それらはターゲットとするアウトカムが異なっていた:1つは身体機能を重視する「統合高齢者ケア(Integrated Geriatric Care)」モデル、もう1つは主として症状と患者の心配に焦点を当てる「統合緩和ケア(Integrated Palliative Care)」モデルであった。包括的な分類に共通するシナジー領域は、個人中心のケア、教育と多専門職チームであった。レビューは117の異なったアウトカムを評価していた。メタアナリシスにより、どちらのモデルでも、QOL改善の効果(疼痛、うつ症状、心理的安寧の改善)が確認されていた。しかし、経済的分析とその含意の検討は極めて不十分であった。

二木コメント-63頁の超長大レビューで、たくさんの総括表が掲載されています。しかし、私には、たいへんな労力をかけた割には、特に目新しい知見が得られたようには思えませんでした(all pain and no gain, lots of pain and not much gain)。

○EQ-5D-5Lでは捉えられない健康関連のQOL:国際患者調査の結果
Ffthymiadou O, et a: Health related quality of life aspects not captured by EQ-5D-5L: Results from an international survey of patients. Health Policy 123(2):159-165,2019[量的研究]

本論文では、一般的な健康関連QOL測定尺度であるEQ-5D-5Lが、患者が重要だとみなしているQOLの諸側面を捉えているか否について考察し、エビデンスを示す。慢性疾患を有する個々の患者に対するオンライン調査で、患者がEQ-5D-5Lでは捉えられていないとみなしている健康関連QOLと重要なQOL側面についてのデータを集めた。患者の大半は、乳ガン、血液系の悪性腫瘍、慢性関節リウマチ、喘息、難病であった。患者は47か国の320の患者組織・ネットワークを通して同定した。

38か国の767人が回答した。患者の平均年齢は50歳で、77%が女性だった。回答者の51%がEQ-5D-5Lでは捉えてられない重要なQOLの側面があると回答した。それらは合計17側面あり、最も多かったのは疲れ(19%)、次が薬の副作用(12%)であった。17%は、疲れは疾病の経過と共にもっとも変化するとも回答した。以上の結果は、最新のEQ-5D-5LもQOLの重要な側面を捉え切れていないことを示唆している。

二木コメント-世界でもっとも広く用いられているEQ-5D-5Lでは捉えられない健康関連QOLの諸側面が存在することを定量的に示した貴重な研究と思います。

○パーソン・センタード・ケアと個別化医療:和解できない対立物か潜在的仲間か?
El-Alti L, et al: Person centered care and personalized medicine: Irreconcilable opposites or potential companions? Health Care Analysis 27(1):45-59,2019[理論研究]

個別化医療(PM)とパーソン・センタード・ケア(その人を中心としたケア。PCC)は最近開発された2つの概念で、統計的平均からの乖離に基礎を置く標準的ガイドラインと対照的に、共に個々の患者に合わせた医療・ケアを目指している。この点で両者は類似しているが、両者の出発点は大きく異なっている。PMは生物医学的(biomedical)枠組みから出発しているのに対して、PCCはケアの視点から出発し、患者を全人的に理解する志向がある。この2つの概念がどこまで結合できるのか、あるいは根本的または実用的レベルで対立するのかは明らかではない。本論文は医学及び医学関連哲学の既存文献をレビューし、理論と実践の両面で、両者がどこまで重なり合い、どこで対立するのかを探究する。その際、倫理的仮定と実用的意味に注目する。

二木コメント-日本では個別化医療(別名:プレシジョン医療)は主として先端医療領域で、パーソン・センタード・ケアは主として認知症ケアの領域で用いられていると思います。本論文は両者をより広く捉え、異同を厳密に検討しています。

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3. 私の好きな名言・警句の紹介(その176)-最近知った名言・警句

<研究と研究者の役割>

<その他>

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