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『二木立の医療経済・政策学関連ニューズレター(通巻172号)』(転載)

二木立

発行日2018年11月01日

出所を明示していただければ、御自由に引用・転送していただいて結構ですが、他の雑誌に発表済みの拙論全文を別の雑誌・新聞に転載することを希望される方は、事前に初出誌の編集部と私の許可を求めて下さい。無断引用・転載は固くお断りします。御笑読の上、率直な御感想・御質問・御意見、あるいは皆様がご存知の関連情報をお送りいただければ幸いです。


目次


お知らせ

○論文「フュックス教授の『医療経済・政策学』から何を学ぶか?」『日本医事新報』2018年11月3日号に掲載します。権丈善一氏の『ちょっと気になる政策思想-社会保障と関わる経済学の系譜』(勁草書房,2018)の書評『日本医事新報』2018年11月20日号に掲載しました。両論文は「ニューズレター」173号(2018年12月1日配信)に転載する予定ですが、早く読みたい方は掲載誌をお読み下さい。

○教育講演「私の医療経済・政策学研究の軌跡-『医療経済・政策学の探究』をもとに」を、2018年12月1日に立教大学新座キャンパスで開催される日本医療福祉政策学会第2回研究大会で行います(13:20~15:20)。参加費は会員1500円、非会員は2000円です。資料の準備の都合上、開催1週間前までに「日本医療福祉政策学会」ホームページの「第2回研究大会の案内(第2報)」からの申し込みが必要だそうです。


1. 論文:2018年度同時改定を医療政策の視点からどう読むか?
(真相を読む・真相を解く(80)」『日本医事新報』2018年10月6日号(4928号):24-25頁)

本年度の診療報酬・介護報酬同時改定についてはすでに多くの解説や対応指針が示されています。今回の改定はきわめて論理的でしかもきめ細かいと高く評価されており、私も大枠ではそれに同意します。本稿では、その繰り返しは避け、医療政策的に重要と思われる以下の4点について検討します。①7対1病棟と10対1病棟の再編・統合、②200床未満の中小病院の地域包括ケアへの参入の促進、③医療機関の「複合体」化の奨励、④療養病床の介護医療院への転換の誘導。

「一般病棟入院基本料」は「一体改革」の放棄

言うまでもなく、今回の診療報酬改定の最大の目玉は、従来の7対1病棟と10対1病棟の入院基本料を再編・統合した7段階の「急性期一般入院基本料」の創設です。

従来は7対1病棟と加算最高ランクの10対1病棟の入院料の差は204点もありましたが、改定後は、入院料1(旧7対1病棟。1591点で変更なし)と入院料2(旧10対1病棟の最高ランク。1561点)の差はわずか30点に縮小しました。しかも、入院料2の看護配置は10対1でよいため、旧7対1病棟より看護職員費用が大幅に低下する結果、相当の増収になります。そのために、病院団体や病院経営者のほとんどはこの改革を好意的に受け止めていいます。私自身も、この改革は従来の7対1入院基本料と10対1入院基本料との大きな格差を縮小する上では、合理的だと判断しています。

ただし、医療政策の視点からみると、重要な問題点を含んでいるとも思っています。それは、民主党政権時代に決定され、安倍内閣もそれを踏襲している(ハズの)「社会保障・税一体改革」に示されていた「医療・介護に係る長期推計」(2011年6月)中の2025年度までに目ざすべき「急性期医療の改革(医療資源の集中投入等)」が、今回改定で最終的に不可能になったからです。具体的には、「長期推計」では、「高度急性期の職員等 2倍程度増(単価約1.9倍)」、「一般急性の職員等 6割程度増(単価約1.5倍)」と明記され、高度急性期はもちろん、一般急性期でも、7対1病棟を超える看護配置の創設を見込んでいたからです。なお、「最終的に不可能となった」と書いたのは、2014年度の診療報酬改定で「長期推計」はすでに棚上げされていたからです(『地域包括ケアと地域医療連携』勁草書房,2015,第2章第4節)。

2014年度と2016年度の診療報酬改定でも7対1病棟の削減は目ざされましたが、微減にとどまりました。それに対して、今回の「再編・統合」による入院料2の創設は病院の収益増という誘因があるため、旧7対1病棟(入院料1)からの移行はある程度進むと思います。ただし、既存の7対1病棟の看護職員を機械的に減らすことは看護業務の過密化を招くため不可能です。すでに移行した病院では看護補助者の採用を増やしたり、看護業務の他職種へのシフトを行っていると報じられています。

そのために、私は、今回の「再編・統合」でも、2014年度の診療報酬改定時に財務省サイドが期待した旧7対1病棟の大幅削減(9~18万床)は不可能だと判断しています。しかも入院料1と2の点数が30点しか違わないため、財務省がかつて期待した旧7対1病棟(入院料1)の大幅削減による入院医療費の大幅削減も望めません。

中小病院の地域包括ケア参入の促進

私は今回の診療報酬改定で2番目に注目すべきことは、200床未満の中小病院を地域包括ケアと在宅ケアに本格的に参入させるための誘因がさまざまに組み込まれたことだと判断しています。

その中でもっとも重要なものは、200床未満の病院しか算定できない地域包括ケア病棟入院料1・3(新設)の要件にさまざまな「地域包括ケアに関する実績」が含まれたことです:①自宅等から入棟患者が10%以上。②自宅等からの緊急入院が直近3カ月で3人以上。③在宅医療等の提供に関しア~エのうち少なくとも二つを満たす(後述。④は略)」。

地域包括ケア(システム)が厚生労働省の検討会で最初に提唱された2003年には、「医療」は診療所医療・訪問診療に限定されていましたが、その後医療の範囲は徐々に拡大され、2012年頃からは厚生労働省幹部もそれに中小病院を含むことを明言し始めました。今回の診療報酬改定はその軌道修正の「完成型」と言えます。逆に言えば、軽度急性期や急性期後の患者を主に扱う中小病院は地域包括ケア病棟入院料(特に入院料1と3)が第1選択になると思います。

「複合体」化の奨励

このことは、すでに多くの方が指摘・強調しています。私は、それに加えて、今回の改定で、厚生労働省は病院・医療施設の「保健・医療・福祉複合体」化(医療機関が同一法人で、または関連法人と共に、何らかの関連施設を開設。以下、「複合体」)の奨励に踏み切ったと判断しています。
私がこう判断する理由は3つあります。第1は、上記地域包括ケア病棟入院基本料1・3の要件の「地域包括ケアに関する実績」の③のエに「介護保険における訪問介護、訪問看護、訪問リハビリなどの介護サービスを提供する施設が同一敷地内にある」ことが含まれたこと。第2は、「自宅等」に「自宅」(マイホーム)だけでなく、「介護医療院、特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム、認知症高齢者グループホーム、有料老人ホーム等」を含んだこと。第3は、同一法人や開設者が同じなど「特別の関係」にある場合は算定できなかった入退院時の連携を評価した項目(退院時共同指導料1・2等8項目)の算定を認めたことです。第2は自宅等に介護医療院を加えたことを除けば従来通りですが、第3は明らかな方針転換です。

2000年の介護保険制度発足前後から医療機関の「複合体」化は進んでいますが、今回の改定によりそれが加速されると思います。

介護医療院への転換の誘導

4番目に注目したのは、昨年の改正介護保険法で「介護医療院」が制度化され、今回の介護報酬改定で既存の介護療養病床と25対1医療療養病床のそれへの転換が強力に誘導されていることです。

具体的には、療養病床からの移行が想定されている「Ⅰ型療養床」の基本報酬は、介護療養病床と同額に設定されただけでなく、手厚い「移行定着支援加算」(1日93単位。移行から1年間。2021年3月までの期間限定)が創設されたことです。

前者については、2006年の介護療養病床廃止決定時にはそれの移行先として老人保健施設等が想定され、その場合は介護報酬の大幅減額が当然視されていたこととは大違いです。今では信じがたいことですが、当時厚生労働省は、「療養病床の再編成の効果」として、医療保険で4000億円減、介護保険で1000億円増、差し引き3000億円の給付費削減との「粗い試算」を発表していました(栄畑潤『医療保険の構造改革』法研,2017,94頁)。

後者のような「大盤振る舞い」とも言える大幅加算は史上初めてです。しかも、介護医療院への転換には病床転換助成事業も適用されます。この移行が順調に進めば、最大で10万床の療養病床が介護医療院に移行し、その結果、制度上「病院病床」は同数減ることになります。言うまでもなく、これは厚生労働省が描いている「2025年の医療機能別必要病床数」(削減)に組み込まれます。

ただし、この転換が順調に進むか否かは不透明です。なぜなら、療養病床から介護医療院への転換は高齢者保健福祉計画・介護保険事業計画の「総量規制」の枠外であるにもかかわらず、介護医療院による介護費用急増を懸念する一部の(財政力の弱い)市町村は、2018~2020年度の第7期上記計画に介護医療院の整備を含んでいないことを理由にして、介護医療院への受理を保留しているからです。

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2.論文:医療費増加の「最大の要因」は医師数増加か?
(「二木教授の医療時評(164)」『文化連情報』2018年11月号(488号):18-26頁)

はじめに

印南一路氏(慶應義塾大学教授)は、2016年に、日本の医療費増加の「最大の要因は医師数であった」とする実証研究を発表しました(1)。同氏は、本年7月、さらに踏み込んで、医療費抑制のためには「医学部定員の削減と保険医定員制の導入が必要」と提言しました(2)

私はこれらを読んで、強い違和感を感じました。その理由は2つあります。1つは、国際的に見ると、総医療費の水準・増加の主因はGDP・所得(の増加)であることが、マクロ医療経済学の膨大な実証研究で確認されているからです。もう1つの理由は、日本では1980年代に医師数が医療費増加の主因との理解に基づいて医学部の定員削減が実施されたものの、それによる医師数不足が21世紀に入って社会問題化した「医療危機(荒廃)」の要因(の一つ)と見なされ、2008年度以降、逆に医学部の定員増が行われたからです。

本稿は次の2部構成とします。第1部では、総医療費の決定要因についての既存の(印南氏以前の)実証研究について概観します。まず、権丈善一氏(慶應義塾大学)による2000年以前に発表された実証研究の詳細・厳密な文献レビューに依拠して、ニューハウスとゲッツェン等の研究を紹介します(3,4)。次に私が2009年に発表した論文「医師数と医療費の関係を歴史的・実証的に考える」中の「医師数と医療費の関係についての実証研究」のポイントを紹介します(5)。第3に、印南氏が「医療費の増加要因について…確定的なことは述べられていない」と紹介している(1:64頁)、マーチン等の最近の欧米文献のレビューを検討します(6)

第2部では、まず印南氏の実証研究のポイントを紹介します。その際、印南氏の著書の元になっている2つの原著論文も参考にしました(7,8)。次に、それに対する私の疑問を述べます。さらに、1980年代以降の医学部総定員と医師数の変化に基づいて、今後「医学部定員の削減」を行っても、医師数の削減およびそれによる医療費の削減は不可能であることを示します。

最後に、実は、印南氏自身も、医師数を含めて、「特定の変数が動けば、医療費増加率がそれ以上に変化するという『魔法の杖』は存在しない」と認めていることを指摘します。

1 総医療費の決定要因についての実証研究

ニューハウス:総医療費の9割はGDPで説明できる

一国の総医療費の水準の決定要因についてのマクロ医療費分析は1950年代から行われてきましたが、現在の研究につながる画期的研究は、ニューハウス(アメリカの医療経済学者)が1977年に発表しました(9)。ニューハウスは13か国の1人当たり医療費と1人当たりGDPとの線形回帰モデルを推計し、各国間の1人当たり医療費のバラツキの9割は各国の1人当たりGDPにより説明できることを発見しました。この事実は、その後のほとんどすべての実証研究で確認されています。例えば、2018年のOECDデータによると、1人当たりGDPと1人当たり保健医療支出の相関係数は0.887です(10:6頁)。これは国際横断面分析ですが、ニューハウスは、国内時系列分析では、時がたつに連れて医療費のGDPに占める割合が上昇している事実も発見しました。この事実も、現在に至るまで、ほとんどの国で確認されています。

と同時にエントーベンは、国内横断面分析(アメリカの州間医療費格差の決定要因分析)では、1人当たり所得と1人当たり医療費との間の相関係数・所得弾力性は非常に低いか、マイナスの場合さえあるという意外な事実も見いだしました。これは上述した国際横断面分析や国内時系列分析の結果と矛盾します。

この問いに対して、ニューハウスは次の仮説を示しました。「多くの国で、医療は消費者にとって無料であるために、国内のある一時点では消費者の所得と医療価格は重要な資源配分パラメータとはならない。これとは対照的に、国際横断面・国内時系列分析にあっては、各国の政策主体は、医療サービスの完全価格に直面しているので、所得は重要な資源パラメータとなる」(権丈氏によるまとめ(4:156頁))。もう少し具体的に言えば、日本を含めて全国民を対象にした公的医療保障制度のある国では、患者自己負担が低額に設定されているために、低所得者の医療機関受診が抑制されることはなく、その結果、高所得者と低所得者の医療費には(大きな)差は生じないことが確認されており、これと同じことが地域間の1人当たり所得と1人当たり医療費の関係についても言えるのです。

ゲッツェンの「所得に対する医療費の緩慢な調整ダイナミズム」仮説

ニューハウスの研究以降、OECDが加盟国の詳細な医療費データを公表し始めたこともあり、パネルデータ(複数の主体の複数期間のデータ。時系列データと横断面データの統合)を用いた国際比較研究が活発に行われるようになりました。それらの中で特筆すべきは、ゲッツェン(アメリカの医療経済学者)の一連の研究です。氏は、1995年に発表した論文で、上述した各国で1人当たり所得の増加に対応して1人当たり医療費も増加している事実と、単年度の所得増加と医療費の伸びの相関が弱いこととの矛盾を調和させるために、「所得に対する医療費の緩慢な調整ダイナミズム」仮説を提示し、実証分析を行いました(11)。その結果、所得増加率の過去6年間の平均と医療費の単年度増加率との間に強い正の相関を見いだしました。

このような「所得に対する医療費の緩慢な調整ダイナミズム」は、その後、日本でも、2007年の厚生労働省「『医療費の将来見通しに関する検討会』議論の整理」で確認されました(12)図1 (PDFファイルPDF)「診療報酬改定率と経済成長率」に示したように、「診療報酬改定が、その改定率決定時における過去の経済動向を踏まえつつ、決まることを考えると、両者の関係に一定のタイムラグがあると考えられるため、診療報酬改定率と経済成長率との関係について、経済成長率を1年ずつ過去にずらして、相関係数をとる試みを行った」ところ、「タイムラグを4~5年とった場合に、約0.9という非常に高い相関が得られた」のです。

医師数と医療費との関係についての実証研究

所得によって国際的な医療費の格差の約90%を説明したニューハウスの研究の後、残りの10%程度を、医療制度・政策によって説明しようとする、精緻なマクロ医療費分析が多数行われましたが、あまり大きな成果は生まれませんでした。数少ない成果は、それまでの常識に反して、人口高齢化は医療費の増加要因ではないことが確認されたことです(13)。このことは後述する印南氏の研究でも再確認されています。

医療制度・政策に関わる変数に、医師数も含んだ研究もありますが、いずれも医師数は医療費の水準・増加率には影響しないことが確認されました。そのことを、私は「医師数と医療費の関係を歴史的・実証的に考える」で紹介しました。以下、3つの代表的研究のポイントを紹介します(5)

第1はニューハウスの1992~1993年の研究です(14,15)。氏は、アメリカの総医療費(1人当たり実質医療費)の増加要因として、人口高齢化、医療保険の普及、国民所得の増加、供給者誘発需要(医師数増加)、サービス産業と他産業との要素生産性上昇率の格差を選び、それらの医療費増加寄与率を推計して、それらが医療費増加の主因ではないことを示した後、これらの要因では説明できない医療費増加の「残余」の大半が技術進歩で説明できると指摘し、技術進歩の医療費増加寄与率が50%弱であると見なしました。

医師数増加と医療費増加との関係について、ニューハウスは、1930~1990年の人口当たり医師数増加率と1人当たり実質医療費増加率を10年刻みで比較し、すべての期間で、医師数増加率が医療費増加率を大幅に下回り、しかも両者の間には何の相関もないことを理由にして、「医師数増加は医療費増加のほんのわずかの部分を説明できるに過ぎない」と結論づけました。

第2は、イエットタム(スウェーデンの医療経済学者)の1998年の研究です(16)。氏は、OECD加盟22か国の20年に及ぶパネルデータを用いて15の重回帰分析を行ないました。そのうち、医師数を説明変数に含む6つの重回帰分析のいずれでも、医師数の医療費水準に対する係数がマイナス(ただし、有意ではない)という結果が得られました。氏はこの結果について、医療費に対しては医師数よりも、医師に対する診療報酬の支払い方式(出来高払いであるか否か等)の影響の方が大きいと解釈しました。

第3は、クーパー、ゲッツェン等が2003年に発表した「経済成長は医師の供給・利用の主要な決定要因である」です(17)。この論文名からも明らかなように、この研究は、医師数増加が医療費増加の要因と仮定する従来の研究とは視点を逆転させて、経済成長が医師数増加を規定するとの仮説を立て、それをアメリカ国内全州の1929-2000年の時系列データ、OECD加盟国のパネルデータ(1960-1995年)等を用いた4つの相関分析・回帰分析等で検証しました。この研究の特に優れている点は、横断面分析や一般的な時系列分析を行うだけでなく、1人当たり実質GDP(または国民所得)が一定年限を経た後の人口当たり医師数を規定するという仮説も立て、それを時系列分析で検証したことです。それにより、いずれの分析でも、1人当たりGDPと人口当たり医師数との相関が高いこと、および1人当たりGDPが一定の年限(10年)を経た後の医師数と強い相関のあることを実証しました。この研究は、上述したゲッツェンの「所得に対する医療費の緩慢な調整ダイナミズム」仮説の医師数版と言えます。

私は、以上3つのまったく異なる方法の実証研究により、医師数増加が医療費増加をもたらすという主張は、マクロ経済学的にほぼ完全に否定されたと結論づけました。なお、印南氏は著書で医療費増加要因の先行研究の詳細な検討を行っていますが、それにはなぜか、これらの論文や上述した権丈論文は含まれていません。

マーチン等の最近の文献レビュー

ただし、権丈氏と私の文献レビューは2000年以前に発表されたマクロ医療費分析を対象にしています。そこで、印南氏が「最近の欧米文献のレビュー」として紹介しているマーチン等が2011年に発表したレビュー論文について検討します(6)。このレビュー論文の対象は、1998~2007年に発表されたOECD加盟国を対象とした20論文です。彼らは、論文要旨で、「20論文中4論文でしか、所得は医療費の主要決定要因とは見なされなかった」と否定的に書き、最後の結論でも、「結果の多様性」を強調する一方で、1人当たり所得には触れていません。これだけだと、上述した先行研究とはだいぶ異なるように見えます。

しかし、論文の「付録」の20論文の説明を見ると、マクロ医療費分析は12論文で、しかもOECDまたはEU加盟国を対象にしたパネルデータ分析は7論文だけで、そのうち少なくとも5論文では1人当たり所得が医療費(増加)の有意な決定要因でした(2論文では「付録」の記載だけでは判定不能)。マクロ医療費分析の残りの5論文は一国内の1人当たり医療費(増加)の地域差の要因分析であり、上述したように、全国民を対象にした公的医療保障制度のある国では、所得階層間および地域間の医療利用・消費の格差がほとんど消失する結果、1人当たり所得が1人当たり医療費(増加)主要決定要因にならないのは当然です(ただし、イタリアの論文では主要決定要因)。なお、マクロ医療費分析以外の8論文は、1国の個人レベルのデータを用いたミクロ経済学研究で、そのうち7つは医療費増加の主因は人口高齢化ではなく死亡直前の期間だとするツヴァイフェル仮説の検証を行っていました。

また、本論文の要旨では「医師数」は医療費の決定要因としては触れていませんが、個別の論文の説明を見ると、医師数を医療費(増加)の要因とするものは1つ、有意な要因ではないとするものが1つありました。それ以外に、アメリカの州レベルの医療費増加要因を分析したパネルデータ分析が「医師の給与の10%の上昇が医療費の2.2%増と関連している」としていました。

以上から、この文献レビューでも、先行研究によって確認されている事実(国際横断面分析と国内時系列分析では所得が医療費の決定要因と見なせるが、国内横断面分析では両者の関係は弱い)が再確認されたと言えます。

2 印南氏の医師数が「最大要因」説の検討

印南氏の実証研究の概略

次に、印南氏が医療費増加の「最大の要因は医師数」であるとの結果を見いだした実証研究について検討します(1)。印南氏は、図2 (PDFファイルPDF)に示したように、1983~2012年(29年間)の国民健康保険データを用いて、被説明変数として1人当たり国保医療費、説明変数として都道府県別の需要サイドの6変数と供給サイドの5変数(合計11変数。医療費水準の「静的決定構造」を示す)、及び各年の「年次ダミー」(29変数)を「同時投入」する「医療費の分析モデル」を作り、「線形パネルデータ」分析を行っています。「静的決定構造」を示す変数は、年度別のステップワイズの横断面分析により選択しています。分析の第1段階では年次ダミーを加えない分析を行い、第二段階で年次ダミーを加えた分析を行っています。なお、氏のモデルには「医療技術進歩」は変数として投入されていません。その理由は「都道府県レベルで長期間にわたって同一の基準で測定された適切な指標がない」ためです(1:120頁)

その結果、図3 (PDFファイルPDF)に示した「国保医療費増加の要因」を得ています。国保医療費に対する有意な「水準弾力性」が得られたのは10変数で、最大の水準弾力性が得られたのは医師数(人口当たり)で、年次ダミーなしの場合0.94、年次ダミーありの場合0.54でした。この結果は、年次ダミーのある場合、医師数が10%増える(減る)と、医療費は5.4%増える(減る)ことを意味します。それに対して、1人当たり県民所得の水準弾力性は、年次ダミーなしの場合は0.65で有意でしたが、年次ダミーありの場合は有意ではなくなりました。印南氏は、この結果に基づいて、「1人当たり都道府県国保医療費の水準を高める最大の要因は医師数である」と結論づけています。

印南氏の分析・解釈への疑問【注】

ただし、私は印南氏の分析・解釈には大きな疑問を持ちます。最大の疑問は、年次ダミーを入れない第1段階の分析結果は、都道府県レベルの横断面分析にきわめて近いことです。上述したように、日本では(正確には全国民を対象にした公的医療保障制度がある国ではどこでも)、所得と医療費との相関は、個人レベルでも、都道府県レベルでもごく小さくなっているのは当然で、その場合、医師数が最大の要因になることは、既存の多くの研究でも確認されています。それに年次ダミーを加えると、1人当たり県民所得の水準弾力性が有意でなくなるのは、図3に示したように年次ダミーには「制度改正、診療報酬改定、医療技術の進歩等」の雑多な要因が含まれているため、第1段階ですでに過小評価されている県民所得の水準弾力性がさらに小さくなるためだと思います。

印南氏は、「日本の医療費の増加要因について語るなら、日本のデータによる分析が必要であり、先進諸国の普遍性の高い研究成果が、仮にそれを日本を除く国々で普遍的であったとしても、それを無批判に受け入れることの方が危険である」と述べ、自己の結果と「国際的な研究結果の乖離」の原因として以下の3つをあげています(1:117-118頁)

「まず,諸外国と異なり.日本は公定価格制度を採っており.医療サービスの価格がかなりコントロールされているので,医療サービスの利用に関して所得に依存する部分が少ないということである。また、一般国民は国民皆保険、月額の世帯単位での支払い上限額である高額療養費制度の整備、さらに医療機関を自由に選択できるフリーアクセスのおかげで、原則として所得に関わりなく、かなりの程度の医療へのアクセスが保障されているので、この意味でも所得への依存度が小さいことになる。もう1つは、県民所得自体の上昇度がそれ以前の時代と比べて、小さいことである。変化の小さい変数の係数は大きくは出ない。1973~81年の分析も行ったが(結果は本書では割愛した)、そこでの最大の医療費増加要因は所得であり(しかも係数が1を超える)、実際この時期に県民所得は急増している」。

しかし、第1の要因は全国民を対象にした公的医療保障制度を有する国に共通していることで、日本独自の要因とは言えません。第2の要因で指摘されている高額療養費制度は日本独自の制度ですが、アメリカ以外の高所得国の公的医療保障制度の患者負担率・額は日本よりはるかに低いので、高額療養費制度がなくても、所得にかかわりなく医療機関を受診できるようになっています。第3の要因は、日本の医療費増加の最大の要因は医師数増加との印南氏の主張の部分否定になっています。

そのために私は、一国の総医療費の増加要因分析は基本的には時系列分析で行うべきであり、都道府県別のデータではなく、全国平均のデータを用いるべきだと判断しています。パネルデータは横断面分析と時系列分析を統合していると言われますが、都道府県別データが大量に含まれる場合は、限りなく横断面分析に近くなるからです。印南氏は、「医療費の増加要因(地域差の要因でもある)」等の記述(1:61頁)から判断して、上述したマクロ医療費分析における時系列分析と横断面分析との大きな違いに十分な注意を払っていない気がします。

医学部定員の大幅削減は不可能

最後に、医療費抑制のためには「医学部定員の削減と保険医定員制の導入が必要」との印南氏の主張のうち、少なくとも医学部定員の削減は、医師数(人口当たり)削減にはつながらず、結果として医療費抑制効果も生じないことを示します。

印南氏の主張の根拠は、言うまでもなく、医師数を10%削減すれば、医療費は5.4%減少するとの結果が得られていることです(年次ダミーありの場合)。しかし、1980年代以降の日本のデータをみると、医学部定員の削減は必ずしも医師数(人口当たり)の減少をもたらしません。

「はじめに」で述べたように、日本では1980年代に医学部の定員削減が行われました。具体的には、総入学定員は1984年度の8360人から2000年の7695人へと8.0%削減されました。しかし、人口10万対医師数は1980年133.5人→1990年171.3人→2000年201.5人→2012年237.8人と増加し続けています(『医師・歯科医師・薬剤師調査』)。今後、医学部の定員削減が行われたとしても、同じ期間に人口減少も進むためもあり、人口10万対医師数が今後も増加し続けることは確実です。しかも、日本の人口10万対医師数がOECD加盟国中最低水準であることを踏まえると(6:15頁)、1980~1990年代の削減を大幅に上回り、医療費削減につながるような医学部定員の削減は政治的に不可能と思います。以上から、印南氏の得た医師数の水準弾力性の数値が妥当な場合にも、医師数抑制は医療費抑制の有効な手段とはなり得ないと言えます。

おわりに-「魔法の杖は存在しない」

以上の分析から、印南氏の研究で、従来のマクロ医療費分析と異なり、所得が医療費増加の有意の変数ではなく、医師数が「最大の要因」となったのは、氏の「医療費の分析モデル」分析が限りなく横断面分析(都道府県間の医療費格差の要因分析)に近かったためと判断できます。医学部定員の削減には医療費抑制効果がないことも示せたと思います。

私は、医師数や医学部定員の問題は、人口減少社会における医療ニーズと医師の地理的・診療科偏在の問題、および専門職者養成のあり方として考察すべきことで、そこに根拠も明確でない医師数と医療費の観点を絡ませるべきではないと考えています(18)

なお、印南氏は日本の医療費増加の「最大の要因は医師数であった」と声高に主張する一方、「医師数の影響力は圧倒的とまでは言えず、医師数さえ抑制すれば医療費全体を抑制できるというほどのものではない」、「[医師数を含め]投入した変数をみる限り、医療費を劇的に抑制する単独の方法はない」、「特定の変数が動けば、医療費増加がそれ以上に変化するという『魔法の杖』は存在しない」と認めてもいます(1:93,95,120頁)。私もこの認識に賛成です。氏には、今後は、このような冷静な認識を前面に出した政策提言を行うことを期待します。

【注】他の要因の分析結果は妥当

本文では、印南氏の実証研究の結果のうち、所得と医師数のみについて検討しました。それ以外の主な要因の分析結果は以下の通りです(番号は私が付けました):①「平均在院日数は、(中略)医療費適正化政策の目玉の1つであるが、(中略)むしろ医療費の増加要因である」。②「人口の高齢化は1人当たり医療費の大きな増加要因ではない」。③「医療費適正化政策としての保健予防活動や特別養護老人ホーム建設(特養定員数の増加)は、医療費適正化効果についてはあまり期待できない」(1:95-96)。印南氏は、「これらの結果は従来のクロスセクション分析研究と時系列分析研究の成果と矛盾するものではなく、むしろ統合した結果にもなっている」と解釈しており、私もそれは妥当だと思います。

なお、印南氏は2番目の原著論文の概要で、「医療費増加の最大の要因は、巷間よく言われる高齢化でも、また医療経済学の通説になっている所得や医療技術の進歩でもなく、医師数の増加であった」(8:50頁)と書いていますが、「医療技術の進歩でもなく」はフライングです。なぜなら、本文で紹介したように、印南氏の「医療費の分析モデル」には「医療技術進歩」は変数として投入されていないからです。ただし、印南氏も著書で引用しているように、私の1995年の実証研究では、「少なくとも1980年代以降(90年代半ばまで)は、厚生労働省が医療技術の進歩そのものを医療費適正化政策の対象にしたため、医療技術進歩は日本では医療費[正確には「医療費水準」(国民医療費を国民所得、国民総生産でデフレートして計算)-二木]増加の『主因』ではない」との結果が得られています(1:80頁、19)

謝辞:本稿をまとめる上で、権丈善一氏(慶應義塾大学教授)にさまざまなご教示を頂きました。心から感謝します。

文献

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3.最近発表された興味ある医療経済・政策学関連の英語論文(通算
152回)(2018年分その8:6論文)

「論文名の邦訳」(筆頭著者名:論文名.雑誌名 巻(号):開始ページ-終了ページ,発行年)[論文の性格]論文のサワリ(要旨の抄訳±α)の順。論文名の邦訳中の[ ]は私の補足。

○[アメリカにおける]病院と医師の垂直統合:経済理論と費用と質についての実証的エビデンス
Post B, et al: Vertical integration of hospitals and physicians: Economic theory and empirical evidence on spending and quality. Medical Care Research and Review 75(4):399-433,2018[理論研究・文献レビュー]

病院・医師統合が増加している。それにより効率改善が可能かもしれないが、最近の研究では、反競争的行動、費用増加、及び質についての不確定な影響についての懸念が示されている。本文献レビューでは、まず垂直統合についての新古典派経済学と制度派経済学の主な理論(非効率の除去を目ざす効率ベースの理論と市場支配力の強化に注目する戦略ベースの理論が中心)を示し、それら理論を病院・医師関係に応用する。次に、垂直統合が価格、医療費、質に与えた影響についての最新の実証研究(2004~2017年。すべてアメリカの研究)のレビューを行い、それらの理論的枠組みのどれが実証的研究により一番支持されるかを評価する。その結果、垂直的市場閉鎖(vertical foreclosure。競争相手の参入障壁を高める)が、観察された結果を説明する枠組みとして、ある程度支持されることを見いだした。我々は概念モデルを示唆し、将来の研究方向を示す。我々の分析に基づけば、垂直統合は医療サービスの購入しやすさ(affordability)への脅威となるため、政策作成者と独占禁止法規制当局は注意を払うに値すると結論づけられる。

二木コメント-上記要旨(カッコ内の日本語は本文の記述に基づく私の補足)はなんとも分かりにくいのですが、本文の表4によると、レビューされた15文献のほとんどから病院・医師統合により価格と費用の両方が増加するとの結果が得られています。質についての結果は、向上すると不変が拮抗しています。この結果は、従来の文献レビューの結果を再確認していると言えます。本論文の前半では、統合についてのさまざまな経済理論の最新文献が紹介されおり、「お勉強」にはなります(①単純独占利潤、②垂直的外部性、③エージェンシー理論、④取り引き費用経済、⑤垂直的市場閉鎖、⑥インターナル・ケイパビリティ、⑦垂直統合ではなく水性統合を強調)。しかし、私にはそれらはいずれも「理論のための理論」で、病院・医師統合を説明する「ファッション」に過ぎないように見えます。

○[アメリカでの]病院による医師診療組織の取得が価格と医療費に与える影響
Capps C, et al: The effect of hospital acquisitions of physician practices on prices and spending. Journal of Health Economics 59:139-152,2018[量的研究]

過去10年間、アメリカの病院は多数の医師診療組織を取得(ほとんど、買収-二木)してきた。例えば、2007~2013年に、病院は我々の標本に含まれる医師診療組織の10%近くを取得した。我々は病院が取得した後、取得された医師が提供するサービス価格は平均14.1%上昇したことを見いだした。この上昇の45%は、診療報酬支払い規則の悪用(exploitation。例:病院雇用の医師が実施した処置について病院が「施設料」を請求する)のためと見なされた。価格上昇は、医師診療組織を取得した病院が入院市場で大きなシェアを持っている場合、より大きかった。プライマリケア医の統合は、保険加入者の総医療費を4.9%増やしていた。以上の結果は、病院と医師診療組織との「垂直統合」(本論文ではVIと略記)のマイナス面を明らかにしたと信じている。

二木コメント-論文要旨はきわめて簡単ですが、本文では緻密な分析が行われています。この論文も、次に紹介する論文も、上記「文献レビュー」後に発表されたものですが、病院と医師診療組織の統合(病院による医師診療組織の取得・買収)が医療費を増加させるという結果を再確認しています。

○[アメリカ・]カリフォルニア州の医療組織の統合の趨勢:ACA[通称オバマケア]が保険料と外来診療価格に与えた影響
Scheffler RM, et al: Consolidation trends in California's health care system: Impacts on ACA premiums and outpatient visit prices. Health Affairs 37(9):1409-1416,2018[量的研究]

カリフォルニア州では病院、医師、医療保険の市場集中度は非常に高いが、最近の状況と機能はあまり知られていない。我々は統合の趨勢を調査し、「ホットスポット」-規制当局が懸念し精査することが推奨されるほど、水平統合(病院どおしの合併)と垂直統合(病院による医師診療組織の取得)が進んでいる地域・郡-の分析を行った。2016年には、合計58郡のうち7つの郡で、我々が用いた6つの「ホットスポット」指数(4つの水平統合指数と2つの垂直統合指数。Herfindahl-Hirschman指数を用いて計算)がすべてが高く、5つの郡は5つの指数で高かった。病院所有の診療所で働いている医師の割合は、2010年の25%から2016年の40%へと増加していた(専門医では20%から54%に激増し、一般医でも25%から40%に増加)。高度に集中している病院市場における2013-2016年の垂直統合増加は、「医療保険取引所」(オバマケアで導入された州営の医療保険マーケット)の保険料の12%上昇と関連していると推計された。医師の外来サービスに関しては、垂直統合の増加は専門医診察料の9%上昇、一般医診察料の5%増加と関連していた。

二木コメント-カリフォルニア州の調査でも、病院・医師の垂直統合(病院による医師診療組織の取得)の増加により、医療保険料や医師診察料が相当上昇したことが示されています。

○[アメリカにおける、病院組織と]統合された保険提供者は医療保険取引所の低い保険料と関連しているか?
Forgia AL, et al: Are integrated plan providers associated with lower premiums on the Health Insurance Marketplace? Medical Care Research and Review 75(2):232-259,2018[量的研究]

医療保険産業がますます統合されるにつれて、病院と病院グループ(health systems)は保険ビジネスに参入し始めている。保険も急速に医療提供者を買収しつつある。これらの「垂直に」統合された保険提供者は保険市場では脇役だが、その数はどんどん増えている。「医療保険取引所」(オバマケアで導入された州営の医療保険マーケット)は、保険者間の競争を促進するよう設計されているので、統合された保険提供者とそれ以外の保険タイプとの関係を検討できる貴重な機会を与えている。本研究では、まず2015-2016年の全米30州の「医療保険取引所」における、統合された保険提供者とそれ以外の保険の、もっとも安い保険料を、重回帰分析により比較する。次に、両者の平均保険料を比較する。統合された保険提供者の保険料は、はその他のほとんどの保険タイプと比べて、やや安かった(modestly lower)。本研究は「医療保険取引所」における保険料競争についの初期の知見を与える。統合された保険提供者を独立した保険タイプとして検討することは、重要な政策的意味をもっている。というのは、それは市場で増加しつつあり、しかもその価格行動は将来の保険料の趨勢に影響を与える可能性があるためである。

二木コメント-同じく「垂直統合」と言っても、本論文の垂直統合は、医療機関(病院)と保険との統合であり、前論文の「病院と医師との垂直統合」とはまったく異なります。著者によると、本論文は、医療保険取引所における、統合された保険とそれ以外の保険の保険料を比較した最初の研究だそうです。

○[アメリカの]包括払いの病院は高度ナーシングホーム利用が低下し、ケアの統合が改善したと報告している
Zhu JM, et al: Hospitals using bundled payment report reducing skilled nursing facility use and improving care integration. Health Affairs 37(8):1282-1289,2018[質的研究]

メディケアの包括払いモデルのゴールは病院退院後のケアの質を改善し費用をコントロールすることである。しかし、このモデルに参加した病院がどの程度これらの目的達成のために努力しているか、特に高度ナーシングホーム(SNF)の利用については、ほとんど知られていない。病院のアプローチを理解するために、「メディケア関節置換術包括ケアモデル」または「メディケア下肢関節置換術ケア改善のための包括払い」に参加している22の病院・病院グループ(以下、病院)の代表者または管理者に対して半構造化面接を行い、2つの主要な組織的反応を同定した。

第1の主要な戦略は、SNFへの紹介を減らすことであり、そのためにリスク層別化ツール、患者教育、在宅ケア・サポーター、及び在宅ケア機関との連携により、自宅への退院を促進していた。もう1つの戦略は、SNFとの統合を強化することである。具体的には、15の病院は特定のSNFとネットワークを形成し、SNFのケアの質とコストに影響力を行使していた。一般的なコーディネーション戦略は、電子的医療記録へのアクセスの共有、施設間での人員の共有(病院雇用の医師や他の専門職をSNFに派遣)、専属のコーディネーション職員の雇用、データ共有のためのプラットフォーム形成などであった。
二木コメント-この論文の統合は、「病院とナーシングホームとの統合」であり、しかも所有統合ではなく、ネットワーク形成(病院主導の機能的統合)です。ただし、このような統合がケアの質や患者のアウトカムにどのような影響を与えるかは不明です。

○スイスにおける統合医療:最初の全国調査の結果
Filliettaz SS, et al: Integrated care in Switzerland: Results from the first nationwide survey. Health Policy 122(6):568-576,2018[量的研究]

医療組織は医療提供が断片化していると圧力を受け、統合医療が推奨されている。ヨーロッパや他の諸国に存在するたくさんの統合医療事業と比べると、スイスは遅れているように見える。本調査の目的はスイスにおける統合医療事業の包括的に概観することである。統合事業は以下の4つの基準を満たすものとした:①何らかの形で公式化されている、②2つ以上の医療専門職グループが参加している、③2つ以上の医療レベルを統合している、④現在も存在する。我々は組織的に連邦、州(canton)、自治体レベルの主要医療組織に問い合わせた。その結果、2015-2016年に172の統合医療事業を同定し、それらに質問票を送り、155事業から回答を得た。

主な結果は以下の通りである。スイスにも統合医療事業はすでにかなり存在し、しかも増加しつつある。統合医療事業は以下の6つに分類できた(カッコ内は事業数):①保健医療センター(20。精神医療以外のさまざまな医療統合組織の総称)、②医師ネットワーク(9)、③特定の患者グループに対象を限定したグループ(52。精神医療を除く)、④精神衛生・精神科(41)、⑤医薬品(8)、⑥ケア移行・コーディネーション(25)。事業の開始年、言語圏間の分布、統合された医療レベルの数、参加している専門職の数は事業によって異なっていた。

二木コメント-ヨーロッパ諸国内で統合医療後進国のスイス初の調査ですが、「何でもかんでもみんな」(♪おどるポンポコリン♪)統合に見なしているため、焦点がぼけていると思います。

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4.私の好きな名言・警句の紹介(その167)-最近知った名言・警句

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